ご懐妊と生命の危機
アキラ視点
エリーゼは意識がないままベッドに寝かされていた。
「良いニュースと悪いニュースが1つずつあります」
呪術医は、俺たちを見回した。
「じゃあ、良いニュースからお願いします」
「ご懐妊です」
「おお!」とソナタが驚いて見せる。
俺も素直に喜びたいところだが、嫌な予感がした。
「悪いニュースは?」
「生命の危機です。母体に魂が完全に定着しきっていない。確かこの人、最近、異世界に行ったと言っていたね?そのときに、誰かに自分の正体について話したのかもしれない。以前の研究では、異世界で話しても問題ないとされていたのだが、最新の研究結果では、それが否定されてね。遅行性の毒のようにじわじわと効いてくるんだ。この状態だと、母体も、子どもも両方1週間以内に……」
言いよどんだが、言いたいことは理解できた。
死が待っているということを。
「治療法はないのか」
「魂を体に完全に固定する魔法はあります。しかし、その魔法は学校などで簡単に手に入る魔法ではない」
「あんたにも無理なのか?他に手に入れられる方法は?身に着けている人を見つけることは?」
「残念ながらどれも無理だ」
「そんな……」
俺は絶望した。
だが、このまま彼女の死を待っていられない。
「エリーゼ、苦しいだろうが、俺が絶対に治療法を見つけてやるからな!」
学校の研究者、特に肉体と魂の研究をしている研究者に片っ端からアポイントをとって、土下座をしてでも、最新研究について話を聞いた。
だが、どの研究者に聞いても、いい答えは聞けなかった。
「そんな呪術も魔法も聞いたことがない」というのだ。
学校じゃダメならば、学外ならば……。
だが、誰がそんな分野の専門家なのか皆目見当がつかない。
学校の先生に聞いて回って研究者リストを得るか。
だが、世界中の研究者に会っているうちに、エリーゼの病状が悪化したら……。
状況は、絶望的なように思えた。
待てよ?過去の記憶の糸をたどっていこう。
そんな研究者の話、この世界にやってきたばかりの頃にどこかで聞いたことがなかったか。
そう、カギを握っているのは……!
「出でよ!ウサモフ!」
ウサギの召喚獣を呼び出した。
「モフモフ!久しぶりモフ!橋での戦い以来モフね!」
「ああ、久しぶりだな。ところで、お前と初対面のときこんな話をしていなかったか?」
『ある偉大なる魔術師(アイネ・クライネ博士)が、僕を異世界から連れてきて召喚獣になるように改造したモフ』
『アイネ・クライネ博士は著名な研究者だったが、人間の体を入れ替える禁呪の研究に手を出したことにより、学会を追放され、不遇の晩年を送ったとされている人だ』
疑問をぶつけるとウサモフは答えた。
「確かに、僕はアイネ・クライネ博士が召喚獣に改造したウサギだモフ。博士が、入れ替えの禁呪の研究をしていたというのも本当モフ」
「アイネ・クライネ博士が晩年、研究していた施設、知ってるか?」
「知ってるモフ。案内するモフ」




