戦争報道とジャーナリズム精神
アキラ視点
新聞社では女記者と警備員の2人が出迎えた。
「お待ちしていました。クライスさんですね。早速ですが、ご挨拶もほどほどに、今朝の朝刊に間に合わせたいので取材をお願いできますか」
「承知しました」
護衛は、成功した。
後は外部からの圧力がかからずに新聞記事として、アマデウス議員の悪事が無事に出回るのを祈るだけだ。
日本でも、新聞社襲撃事件というものが昭和の終わりにあったことは聞いたことがある。
だから、警備が仕上げの仕事になる。
警備員さんから話を聞いた限りでは、議員からの圧力はあった様子。
編集局長がジャーナリズム精神で跳ね返していたとのことだ。
記者はエリック、つまりエリーゼには取材済で、証拠品は回収しているとか。
エリーゼと協力して全力で警戒網を魔法で敷く。
しばらくすると、アレグロとソナタが合流したので、交互に睡眠を取る。
午前1時、朝刊の記事になるタイムリミットが来た。
「いい記事が書けそうよ!」と記者さん。
クライスさんは謝礼を受け取り、俺たち全員、新聞社の負担でホテルに解放された。
あとは、印刷され、家庭に新聞が届けられるまでのプロセスに妨害が入らなければ…!
緊張感から解放された俺は泥のように眠った。
目が覚めると午前11時半。
エリーゼが気を利かせてくれたのか、新聞の朝刊が置かれていた。
『アマデウス連邦議員!軍部と癒着!死の商人として開戦の糸を引く!元秘書が語る戦争の真実』
記事の内容は、武器を売買するかたわら、魔族との戦争を引き起こして大量の利益を軍部から得ようとしていたことを中心に書かれていた。
俺たちにとっては、アマデウス議員が魔族相手にいけにえを売買していることこそが重大な関心ごとだったが、また、エリックが彼を追う理由だったが、真に世間の目を引く彼の悪事は別のところにあったようだ。
魔法ニュース、新聞などなど、各種メディアの反応はまちまちだ。
アマデウス議員を非難するもの、擁護するもの、取り上げずに無視するもの、メディアの性質や母体によって利害関係が複雑に入り混じり、すぐには一定の世論は形成されない。
ただし、魔族との厭戦気分が蔓延していたのは事実であり、記事がきっかけて反戦デモが活発化された。
このニュースは人間サイドだけではなく、魔族側にも流布した。
人間側および魔族側の反戦派はそれぞれの陣営にスケープゴートを作り開戦の責任を被せることを画策し、和平の道は敷かれていった。
必ずしも褒められたやり方ではないし、未来への課題も数多く残るが、市民にとっては、仮初の平和は訪れたのだった。
俺たちは一夜にして歴史の1ページを作ったのだ。




