ゆうべはおたのしみでしたね
エリーゼ視点
アキラが旅立とうとしている。
その噂をアキラと同室のハンスさんから聞いた私は追いかけることにした。
彼の姿を見つけ、追っていくと振り返った。
「エリーゼ。危ないから教えなかったのに」
「あなた一人を危険な目に遭わせられない。死ぬなら私も一緒よ」
「エリーゼ……」
唇に幸せが降りてくる。
これで何回目のキスだろう。
エリーゼこと私のふるさとに戻ると夕方になっていた。
実家に戻るか悩んだが、家族を危険に巻き込むことは危険だと判断し、地元の宿に泊まることにした。
「通常のルームと親睦室があります。どちらを選ばれますか?」
「親睦室で!」
アキラのスケベ。
私は、今宵もアキラの青臭さを思いのたけを思いっきり、ぶつけられたのだった。
彼ったら、だんだんと男の余裕ができてきたのか、いじわるをしたり焦らしたりすることを覚え始めたわ。
男性として自信をつけて、魅力的な顔つきになっていくのがまぶしく誇らしくもある一方で、このまま、自信を持ちすぎて浮気とかされちゃわないか不安も少し覚えるのだった。
翌朝、聞き込みを開始した。
アマデウス議員に近しい人で不信感をどこか抱いていそうな人。
そんな都合のいい人間いないとは思いつつも、私の顔がこの町で顔を知られていることを武器にして、初対面の幼馴染に当たってみた。
「エリーゼ、聞いたわよ。あんたたち親睦室に宿泊したんだって?どうだったの?」
げげっ。
田舎って怖い。
そんなことで怖気づいてはいられないので、本題のクライス秘書について聞いてみた。
「クライスさんが握る情報は議員にとって命取り。だから、自分も身を隠すことにしたんだ」
「どこに隠れたか知らない?」
「さあ……。それがわかるようだったら、議員がとっくに手出しをしているでしょうね」
そりゃそうだ。
あれだけ、コネクションがたくさんある連邦議員が、血眼に探しても見つからない人間。
それが、学生風情が見つけられるとは考えにくかった。
諦めるか、と帰ることを考え始めたその時、幼馴染が手をぽんと叩いた。
「あ、そういえば、アマデウス議員についておかしな噂があったわ。支援者にエラック湖を調査させてるって」
エラック湖。
この集落に隣接している湖だ。
「なんのために」
「知らないわよ。大して風光明媚でもないから、釣り人しか寄り付かない場所なんだけど変よね」
「図書館だ!」
アキラはひらめいたように言った。
「この町の郷土史を調べる必要がある!」
アキラは、思いついたように歩き出した。
「アキラ」
「なに?」
「図書館がどこか知ってるの?」
「あ」
仕方ないわねと、あきれながら地図魔法を唱えることにした。




