俺は力だけを追い求めてきた
エリックになったエリーゼ視点
ここはどこだ。
ふわふわとしている。
どうやらベッドらしき場所で寝かされているらしい。
ベッドだと!?
俺は助かったのかと周囲を見回す。
病室で、俺は魔法点滴を受けていた。
「やあ。目が覚めたかね」
俺に気さくに話しかけたのは、アキラ・スズキだった。
「どうして、俺はここに。なぜ、お前がこんなところに!」
「クララが全部喋ってくれた」
「クララが……!いてて」
思わず立ち上がりそうになるが、思ったように体が動かない。
「感謝しろよ。あいつは、アマデウス議員に洗脳されたふりをして、わざと悪魔の呪いをかけられながら、葛藤しながら、お前を逃がす機会を虎視眈々とうかがっていたんだ。クララがこの学園にお前を背負ってたどり着いた頃には、ボロボロになっていた」
「なんて……ことだ。クララ……本当に俺を…。」
クララとの信頼関係を疑った己を恥じた。
「じゃあ、クララは今……」
「呪いの治療を受けている。お前と同じく一命をとりとめているが、洗脳が解け切らず闘病している。エリーゼが今頃、看病してるんじゃないかな」
そんなことが……。
「ありがとう、アキラ。そして、クララ……うううう」
俺の目からは涙が溢れた。
力だけ追い求めていた俺に、こんなにも暖かいものが待っていたなんて。
「大丈夫だよ、エリック。これからは俺たちがいる。一緒にやっていこう」
アキラの言葉に力をもらう。
俺はもう一人じゃない。
「アマデウス議員は、学園にも影響力のある実力者だ。おおっぴらには反抗の声明は出せないが、君たちをこっそりと支持してくれている先生もいらっしゃる。医務室の先生だってその一人だ。俺たち生徒だけの力では限界があるからね。議員の不正は、必ず暴かれることだろう。君の呪いも1か月だっけ?必ずそれまでに僕たちが解いて見せる」
「アキラ……」
感謝でいっぱいになるが、それと同時にふと頭をよぎったことがあった。
「一つ、話しておきたいことがある。エリーゼのことだ」
「エリーゼがどうかしたのか?」
俺はすべてを打ち明けることにした。
俺が本当はエリーゼ、彼女の正体はエリック。
俺は禁呪によってエリックの体を手に入れたことを。
エリックはエリーゼとして人生を歩んでいることを。
「驚いた。そういうことならば、エリーゼではなく君がアマデウス議員を告発しようとしたことも合点がいく。だが、その話が本当ならば、正体を打ち明けたら呪いで死ぬはずじゃ?」
「呪いは別の呪いで上書きされた。つまり、俺に1か月後に死ぬ呪いをかけられた時点で、入れ替わりがばれたら死ぬ呪いは無効になった」
「なるほど……そんなものなのか」とアキラはうなづく。
「彼女は、お前のことを愛している。男である過去を捨てて女として生きることさえ覚悟している。だが、正体が男であることを打ち明けたらお前に拒絶されないか悩んでいる。彼女は妊娠したら、女の体に魂が固定されるが……。お前はどうする」
「俺は……!」
アキラは何かを決意したように部屋を飛び出した。




