スラム街をゆく
エリックになったエリーゼ視点
あたしが負けた?
エリート男子の体を手に入れて、絶対無敵の魔法力を手に入れたこの俺様が負けた?
しかも、入れ替わった元の自分と落ちこぼれ男子のペアに?
ありえない!
禁呪を駆使してまで、この体を手に入れたんだ。
そんなことがあるはずがない。
対決の後、シャワーを浴びながらうなだれていた。
惨め。
自分のアイデンティティーを捨ててまで強くなったのに。
これでは、まるで、人格がエリックに、この体の本来の持ち主に完璧に負けたようなものじゃないか。
ショパンのやつが生意気にもこの俺に声をかけてきやがった。
「君も焼きが回ってきたんだよ。これを糧に成長すればいい。俺も日々成長している」
あんな舐めたやつにそんなことを言われる云われはない!
ふざけやがって!
くそ!
俺様はこんなつまらないことで落ち込んでいる場合ではないんだ!
ドラゴンクラスに残留するのはあくまで手段だ。
本来の目的、復讐のためにやらなければいけない仕事があるんだ。
アマデウス連邦議員のスキャンダル集めの仕上げの仕事だ。
これで、やつを牢獄にぶち込むことができる!
さっと、身支度を整えると出かけることにした。
「クララ、行くぞ」
「はいっ!」
俺の真剣さが彼女にも伝わっているようだった。
「いつも、危険な仕事に付き合わせてすまないな。だが、これで仕上げになる」
「エリックになら、あなたにならどこまでも付いていくわ」
頼もしい限りだ。
俺は、学校を休み、暗黒街のスラムを行く。
ここなら例の、証人に会えるはずだ。
ボロ帽子を深く被っている老人に声をかける。
「クライス。クライスという女がこのあたりに居ると聞いたが」
老人は眠っているのか返事をしない。
「行くぞ」
仕方なく立ち去ろうとしたそのとき、老人は喋りだした。
「クライス?クライスに何の用事かね?」
「なんの用事でもいいだろう。一緒に来てもらいたいんだ」
「あんた、たどり着いてはいけない真実にたどり着きなすったね」
老人はぶつぶつ何かを唱え始める。
「クララ!逃げろ!捕縛魔法だっ!」
声をかけたときには遅かった。
縄が地面から、浮き出て、あっという間に、俺をクララの身を捕捉した。
くそっ。
なんだこんなもの。
かまいたちの呪文を唱えてこんなものは切り刻めばいい。
そのとき、ガスが俺たちを吹き付ける。
「げほっ!げほっ!くそっ!罠か!」
「いかにも、貴様らがここに来ることなど織り込み済みだよ。さあ、ゆっくりと眠っていいのだよ」
せっかく、ここまで来たのに。
あと、一歩だったのに。
俺は意識を失った。




