努力の方向性
アキラ目線
「クララ・ノーマン。彼女がエリックの弱点を補う形になる」
エリーゼは「♀」のマークをホワイトボードに書きなぐり、机をバンと叩く。
すごい。
かっこつけで向こう見ずな僕の弱点を補う参謀の役割を頭脳の役割を果たしてくれている。
エリーゼとペアになってよかったと心の底から思った。
「遠距離で魔法を唱えあうバトルになると、当然、エリックの攻撃は、こちらに届かない。そうなると、ロングファイアーなどの合唱魔法にして、弱点を補ってくるはず。それは、どういうことかわかる?」
「単体で使える魔法、例えば、回復魔法のようなものを唱える時間がなくなる」
「そう。クララの回復魔法は私は、天才級だと思っている。ちょっとダメージを与えたところで、あっという間に、エリックを回復してしまう。だから、それを封じ込める必要がある」
「なるほど……」
「あまり極端にお互いの距離を離しすぎると、今度は、逆に向こうも攻撃することを完全にあきらめて、回復に専念しはじめる。回復合戦になるとかえってこちらが不利になる。私もこの体で鍛錬は積んできているけど、クララほど優れたヒーラーじゃないからね」
エリーゼは自分の能力を客観的に分析していた。
「つまり、エリックたちに近づきすぎず、離れすぎず、中距離から、ぎりぎり届く攻撃魔法を唱えつづければ、ダメージが蓄積して、勝機はあると?」
「私はそう見ているわ」
理路整然としていて完璧な作戦だ。
「だけど、そんな中距離を維持することができるかなあ。向こうもこちらの作戦を見抜いて、近づいてくるんじゃ?」
「そうなったときのために、距離を保つトレーニング、つまり、足が速くなるトレーニングが必要になる」
「それってまさか……」
「そうよ!走りこむことよ!」
「えー、さすがに無理だよ」
ジョギングをはじめて効果が出るまで一般的に3か月と言われている。
今からやって効果があるのか?
「その顔はトレーニングの効果が出るまでの期間を気にしてるな。大丈夫、短期間頑張ればすぐに筋トレ効果が出る魔法は知ってるから。あ、ただし、しんどさは10倍増だけど」
「ふへえ……」
ずいぶんと、都合のいい魔法のある世界である。
エリックとの決戦に向けて放課後の3日間、僕たちは体力トレーニング、そして、中距離魔法を使うトレーニング、かまいたちのトレーニングなど多岐にわたって合間の時間、己を高めた。
そして、へとへとになりながらも、エリック、クララペアとの戦いの日がやってきた。




