君たちはどう生きるか
エリーゼになったエリック視点
女子寮にそそくさと帰ると部屋にクララも誰もいないことを確認するためにきょろきょろと見回す。
ベッドにダイブし、枕に顔をうずめて足をじたばたさせる。
「うわあああああ。僕、何してるんだあああああああ!」
枕で口を防ぎながら、隣の部屋に聞こえない程度に抑えた大声で叫ぶ。
ここ最近、ボイトレを頑張りすぎているので、加減を間違えたら、みんなに聞こえてしまいかねない。
気分に流され、アキラとキスしちゃった!
しかも、自分からおねだりしちゃった!
これはまるで、愛の告白を受け入れ、自分が女であることを認めたようなものじゃないか。
アキラの伴侶として生きていきたいって言ってるようなものじゃないか。
僕は男だ。
そして、そのことをアキラは知らない。
僕はアキラを騙している。
こんな偽りの愛は許されていいものなのか。
自分自身と決着をつけるときが来たのかもしれない。
夕暮れ時、アキラとの魔法の訓練の約束をキャンセルし、エリック、つまり元の自分と会うことにした。
あの日、お互いの体が入れ替わったもみの木の下で。
会うのを拒絶されるかと思ったが、彼は彼女はやってきた。
「久しぶり。どうした?深刻そうな顔をして」
僕は、アキラとの関係について、洗いざらい話すことにした。
「ふうん。面白い関係になってるんだ。で、あんたはどうしたいわけ?」
涼子さんと同じ趣旨の質問をする。
僕の気持ち次第……か。
「いいよ。私も男として生きていくのが楽しくなってきたところだから、あなたは女として生きればいいじゃない。利害一致ってやつだね。それに、昨日、クララとしたし」
「ええっ!」
突然のカミングアウトに驚いてしまう。
「したって、まさか、まさか」
「男と女の関係になった。いつ子どもができても不思議ではないね。ま、男としての責任は取るつもりだから安心しな」
その言葉の意味を深く噛み締める。
「で、もう一度聞くけどどうしたいわけ?女として生きたいの?アキラと大人の関係になりたいの?」
「それは、できれば、そうしたいけど、アキラを騙していることになる。つらい……」
思わず涙が出てしまう。
「君も黙ったままやっちゃえばいいじゃん。人間、やる気になればなんでもできる。妊娠して魂がその体に固定されれば、こちらとしても心置きなく男として生きることができる」
「でも、でも……」
肩をポンポンと叩かれる。
「自分の気持ちに素直になりなよ。まあ、俺から言えることはそれだけだな」
男子寮にエリックは帰っていった。
「僕は……僕は……どう生きたいんだろう」
涙が止まらなかった。




