サマータイム
エリーゼになったエリック視点
「この恰好は……」
「似合ってるわよ。エリーゼちゃん」
パーティドレスあるいはワンピースと呼ばれる服を僕は着せられていた。
「すごい……」
肩の露出が多く、スカートは地面に付きそうなほど長く、女性の体の曲線美を強調する衣装。
こんなものを着ていると自分が女であることを強く意識させられる。
それと同時にいけないことをしている気分になる。
僕は男だ、なんてカミングアウトはこの服を着ている限りはしたくないと思った。
僕がこれから歌うサマータイムは、この世界で広く楽しまれているミュージカルと呼ばれる新型の歌劇が生まれたきっかけの一つと言われている楽曲だという。
司会者がマイクロフォンと呼ばれる音声を拡張する機械の前で語る。
「次は、異世界からのお客様です。エリーゼ・オブルスさんが歌う、サマータイム」
拍手の音が聞こえると、僕は舞台に向けてゆっくりと歩く。
ピアノの前に同じくドレスを着た涼子さんが座っている。
マイクの前に立つと深くお辞儀をすると、再び拍手が。
「Summer Time and the livin' is easy」
歌声はこの歌劇の舞台となる海辺の村への旅に僕たちを誘う。
夢のような時間が過ぎた。
「良かったよ。エリーゼちゃん」
「うんうん。この世界に来てはじめてだと思えないくらいすごかった」
花束を抱えた僕を涼子さんとそのお友達が取り囲み賛辞の言葉を贈る。
「アキラのことはよろしく頼んだよ!」
「はい!こちらこそ!」
素直に嬉しい。
嬉しい一方で僕が男であることは言えないでいた。
出番が終わった僕は、文化会館の外で一人、風を受けていた。
冬の風は露出の多い僕の服装の肌に刺さる。
空は晴れていた。
凧あげなる遊戯をしている親子が目の前を通り過ぎる。
「どうしたの?エリーゼちゃん。悩んでいるみたいだけど」
「涼子さん……」
「こっちに来てからずっと、何か言えないみたいな顔しててさ。アキラのやつなんかした?」
魂と身体が違うと知られると死ぬ呪い。
それがあるから、真実を僕は話すことができない。
だけど、それは僕たちが居た世界の話だ。
魔法の効力が及ばないこの世界の人に知られたところで、呪いが発動するわけではない。
今の僕の障害になっているのは、男だと知られることへの羞恥心だけ。
僕自身の心の問題だ。
この人になら、この人になら真実を話してもいいかもしれない。
だけど、拒絶されたらどうしよう。
怖い。
だけど、このことを話さないと本当の家族に、親戚になれない気がした。
「実は……僕は、本当は男なんです」




