洞窟探検レース総括
ギャンブラーカメル視点
60歳になってもギャンブラーというやつはやめられない。
特にミラヴェニアの洞窟探検レースというやつは。
業の深い生業だということは自覚している。
わしは顔なじみの男を見つけたので声をかけることにした。
「どうだね。景気は」
「まあ、悪くないよ。君は?」
「ちょっとルーキー(1年生)レースで大外ししてしまったんだよ」
「ああ、あれは大波乱だったねぇ。えーと、エリックだったっけ?」
「いやいや、エリックは予想通り1位だったんだ。地下80階で。問題は2位がキリンクラスだったんだよな」
「名前はえーと、なんだっけ、アキラ、スズキ?」
「そうそう地下69階まで行ったんだよ。規格外すぎる」
「なんでこんな逸材がキリンクラスに埋もれていたっていう話でね」
「来年から、クラス分け試験の選考基準変わるだろうねえ」
「だろうねえ……今の選考基準って確かチュートリアルドラゴンとのバトルだって?」
「ああ、あの悪名高いサンドボックス戦か。コンピュータグラフィックなんて実力の指標にならないって以前から言われてたんだよ」
「そうなんだ。そのあたりはわしもあまり詳しくないが文句言ってる学生がいるとは魔法ニュースで聞いたな」
「魔法教員もプレッシャー大変そうだねえ。いい加減な生徒をドラゴンクラスの卒業生にすると、産業界や軍から怒られるとかで。ストレスで血を吐いたって教員が居ると聞いたよ」
「俺たちと違って、皆がうらやむエリートなはずだけどなりたくねえなあ……」
「全くだ……」
「アキラってやつも、こんなまぐれ当たりやってしまったら、きっとこれから大変な目に遭うだろうぜ。周囲から妬みやっかみでね。プレッシャーで押しつぶされた学生いたろ、3年前に」
「いやあ、洞窟探検レースは総合力が求められるから、2位になった生徒が無能ってことはあるまいね。これからも実力をつけていくとわしは思うよ」
「しかし、どこの出身だ?えーと、アミナ村?聞いたことないなあ」
「南部の農村と聞く。そんなところ、魔法教育なんて行き届いてないはずだ」
「へえ。そういえば、遠い親戚がそんなとこ住んでたかもしれねえな。それにしても、そんなところ出身で、ここまで成り上がるってよほど才能が恵まれてたんじゃないのか?」
「まあ、若いうちに才能が花開いたやつは成人する頃には凡人というのはこの世界よくあることだよ」
「はは、ちげえねえ」
「じゃあ、お元気で」
「ああ。また来年会いましょう」
わしは、年に1度、レース場で会うだけの知人と別れを告げた。




