ショパンの心の傷
エリーゼになったエリック視点
「大丈夫?震えてるよ?」
「あ、ああ。何とか戦ってみせる」
「無理しないでね」
前方で会話しているペアに見覚えがあった。
ショパンとブーレペア。
僕たちをバカにして、アキラをズタボロに傷つけたやつらだ。
僕たちより1時間早くスタートしているはずだが、どうやら、遅れに遅れて、僕たちが追い付いてしまったようだった。
こんなやつ抜いて恥をかかせてやる。
むかっ腹が立った僕は無視してやろうかと思ったが違和感があった。
本当に震えていて戦える状態じゃない。
箸休め階といってもいい、このあたりのフロアにしては、決して強敵ではないフレイムリザード相手に苦戦していたんだ。
「火が……火が怖いの?」
「トラウマが……トラウマが……」
どうやら、火に対する何らかのトラウマで苦しんでいるようだ。
「アキラ!」
僕はアキラに耳打ちする。
「火に対する心の傷を消す魔法を私は知っている。戦場で使う看護魔法が得意だからね。どうする。あんなやつでも……助けてあげる?」
「エリーゼ……」
アキラは少し考えたが返事した。
「きっと、君の中では答えが決まっているんだろ?君は優しい人だということを僕は誰よりも知っている。僕がどう答えようとやつらを助ける気なんだ。自分の心に従いなよ」
かっこいいこと言ってくれる。
本当に、本当に、アキラの前にいると、僕は男であることを忘れて、一人の女の子になってしまいそうだ。
「ブーレ、ちょっとショパンを看させて」
心の傷を診断する魔法を唱えるとやはり火に対する恐怖があるようだった。
「一体、何が、何があったんだ……」
「実は……」
そこで、僕は、エリックが、元の体の自分がショパンの心をズタボロにしたことを初めて知った。
「そんなことが……いくらなんでもやりすぎだよ」
きっと、エリックなりにエリーゼなりに、アキラとの決闘に思うことがあったに違いなかったが、ひどいことをすると僕は思った。
「ちょっと離れてて、火による心の傷を癒す魔法を唱えるから」
僕がソプラノボイスで呪文を唱えると、みるみるショパンの顔色が戻っていった。
「あ、ありがとうよ。ひどいこと言って悪かったな」
「わかればいいんだよ。人間、どこからでもやり直せるから頑張ってね」
僕が優しく声をかけると嗚咽をあげて泣き出した。
「俺は、俺は、なんてことをしてしまったんだ。こんないいやつらに!」
結局、この2人はこのフロアでレースから去ったが、充実した、満足をした顔をしていた。
「今からでも遅くない。きっと、ここからでも強く成り上がってみせる」と言いながら。
「さて、行こうよアキラ。私が本当に欲しい魔法は地下65階にある!」
そう、男の体に、元の体に戻れる念願の魔法だ。
「じょ、冗談じゃない。1年生はドラゴンクラスでも普通60階も行けば十分と聞いたぞ」
「やってやれないことはない。行こう!」




