スタートダッシュ
アキラ視点
ダンジョン入り口前にスタートラインが敷いてあり、ダンゴムシのようにキリンクラスの生徒たちが固まる。
「思ったような位置取りはできなかったけど、ここでも十分チャンスはある」
と、スタート位置の陣取りをしながらエリーゼがささやく。
「スタートダッシュはどうすればいい?」
「かまいたちの魔法でなんとしてもトップ集団に食い込むのよ。二人でハモればいける。逆に言うと、トップ集団に入れなかったら、後から挽回するのが大変だからね」
やったことのない競技に対し、そんなものなのかとふんふんうなづくのみだ。
しばらくして静寂が訪れる。
どうやら探検会開始の時間がはじまったようだ。
「位置についてよーい」
ピストルの音が鳴り響く。
僕はエリーゼと手をつなぎ、かまいたちの呪文をハモった。
なんだか恋人みたいだな……ってそんなこと考えてる場合じゃなーい。
二人で足早く、ダンジョンの地下1階に踏み入れた。
何人か机を並べて学んでいる顔馴染みの生徒が3組いや4組いた。
「トップ集団に入れたか?」
「わからない。アレグロとソナタはいない。ひょっとしたら、トップじゃないかもしれない」
「第2グループ、あるいは第3グループってところか。出遅れたか」
目の前のスライムはすでに倒されていてモンスターが湧かない。
そこまで前の集団と距離がない、30秒も離されていないことがわかる。
「まだまだはじまったばかり、チャンスはあるわよ」
そのまま、地下2階へ降り、3、4、次々と降りていく。
そして、地下5階に下りた頃には、集団から離れて、単独行動をしていた。
出没するモンスターも少し手ごたえがある敵になる。
ベーシックファイアーで対応する。
「今の僕たちの順位は?」
「魔法で簡単に調べてみたけど5位ね。1位から4位までが前の方で固まっているみたい。頑張って追い付こう。6位以下は距離があるから、追いつかれるのは今のところ大丈夫。まあ、全体的には、ほぼオッズ通りの順位ね」
「追いつくにはどうすればいい」
と聞くと、エリーゼは口元を隠してクスっと笑った。
「どうした」
「一生懸命になってくれてうれしいと思ってね」
ちくしょう。かわいい。でも、冷静に。
「そんなのんきなこと言ってる場合か」
「そうね。ふふ。かまいたちを常時切らさないこと、それが,最低限引き離されないコツよ。そして、地下8階、それが無理なら地下10階で一気にスパートをかけて追いつく」
「地下8階って……」
そうだ。アンデッドが大量湧きすると言われているフロアだ。
「覚えたての魔法だよ?大丈夫?」
「アキラならきっと大丈夫。私が保証するわ」
本当に僕にできるのかな?
いいや、やるんだ。
やってエリーゼに気持ちを伝えるんだ。




