魔法の蓄音機
アキラ視点
「アキラは、ダンジョン探検会って知ってる?」
「学校行事にそんなのがあったはずだけど、それと関係あるのか?」
僕たちは、お互い質問を質問で返しあった。
「ダンジョン探検会ってイベントは、上位のクラスに這い上がれるチャンスなんだけど、それと同時に、たくさんの魔法を覚えるチャンスなのよ」
エリーゼの説明はこうだ。
郊外の田園の中に、人工のダンジョンがあるという。
ダンジョンは古の伝説の大魔法使いにより作り出されたとされている。
地下1024階が最深部とされているが、未だ踏破した者はおらず、ただ、伝説として語り継がれているのみだ。
そのダンジョンに学生たちがチャレンジしちゃおうというのがダンジョン探検会だ。
といっても学生なので、過去にそこまで奥深くに潜ったものはおらず地下128階が過去最高記録。
キリンクラスの1年生にとなると、さらに浅い階層、20階も行けば新記録を出せるというレベル感だ。
「各階層の踊り場には魔法の蓄音機が安置されているの」
「魔法の蓄音機?」
「簡単に言うと、魔法の楽譜を耳コピするための音源みたいなものね。アキラだったら、あるいは、私だったら、きっと、聞くだけで覚えられるはず」
「なるほど、どこかのフロアにある蓄音機に、サリエリさんを元に戻すための魔法が置いてあると」
「地下35階にね」
「35!?僕たちキリンクラスのレベル感をはるかに超えてるんじゃ?」
「大丈夫よ。今のアキラなら、今の私たちなら、もっと奥深くまで行ける。自分では気づいていないかもしれないけれど、ドラゴンクラス下位くらいに相当する実力を今のアキラは身に着けてるわ」
「本当かな?」
エリーゼは頼りになるけど、どこまで本気で言ってるのかわからないや。
ん?
そういえば、疑問に思ったことがあるから聞いてみよう。
「ところで、そんな実力者だったら簡単に手に入る魔法なんだったら、学校にいる関係者が誰かしら身に着けているだろうから、サリエリさんを助けられる人を募ってみれば……?」
だが、エリーゼは首を横に振った。
「私もそう思って、あちこちに聞きまわった。でも、覚えている人は誰もいなかった。想像してみて?機械などに乗り移った魂を元の体に戻せる用途限定の魔法。ピンポイントでそのことに困っていなければ覚えようとはしないんじゃない?」
「確かに……」
言われてみればそうだ。
「地下3階の毒を治す魔法、地下6階の宝箱を鑑定する魔法なんかは、どんな冒険でも役に立つ大人気魔法だから、みんな競い合うように覚えるわ。でも、ニッチな魔法は、みんな通り過ぎるの」
「なるほど、じゃあ、僕たちが、地下35階に到着しなくても、他の誰かに覚えてくれるよう頼めばいいんじゃ?」
「一応、私も少ない人脈の中で頼んでいるけど、でも、『期待しないで』とは言われるから、自分でやるのが確実ね。さ、そういうわけだから、トレーニング始めましょ」
エリーゼは座る僕に手を差し伸べた。
つかむと冷たくて細い指。
今、僕は女子と手をつないでいることを実感する。
はっ。
何を僕はドキドキしているんだ。




