娘よりエリーゼママへの手紙
エリーゼになったエリック視点
「いくよー。投げるよー」
ブーケを花嫁のナーシャさんは高らかに投げた。
「あんたも行きなよ」
と、見知らぬおばさんがせっつく。
「あはは。私はそんなんじゃ……」
男だし、男と結婚するわけじゃないし。
ところが、そのブーケが僕の目の前に飛んできて手にすっぽりとおさまった。
へ?
「いいなー」
「あの子、アキラの学校のペアの人でしょ」
「やっぱりそんな仲なのかな」
と、ちらほら冷やかす声が。
ち、違う、僕は、いつか男の体に戻る身なんだ。
アキラもなぜか僕をちらちら恥ずかしそうに見てるし!
もーなんなの!
結局、あの爆発物は。なぜか不発のままで、海の底に沈められた。
サリエリさんの鋼鉄ボディーはボロボロのままだが、結婚式は、青空の下、つつがなく行われた。
女子寮に帰ると、手紙をバルバラ先輩から渡された。
未来手紙と呼ばれるもので、歴史を改変するものでなければ、未来から過去に向けて一方通行で魔法で出すことができるらしい。
「10年後の未来からの手紙だってさ」
「誰から?」
「あなたの娘から」
ブーっと牛乳を吹き出してしまった。
「噓でしょ?僕……じゃなかった私に娘?」
「あなたが産む子だよ」
『ママへ。げんきですか。わたしはげんきです。10ねんまえということは、まだ、アキラパパとであったばかりですね。これからいっぱい、パパといちゃいちゃして、おとことおんなになって、わたしをげんきにうんでください フォルテより』
「嘘だーっ!」
「まあまあ。私も最初は、自分がお母さんになるなんて、大人の女として男性と契りを交わすだなんて、信じられなかったよ。でも、彼ったら大胆で、私もうふふ……彼を受け入れようと思ったわけ。あなたもそのうちわかるわよ。傍から見てても日に日に大人の女に着々と近づいているから」
生暖かい視線がまぶしい……!
恋愛なり結婚なりといったものは、元の体に戻ったエリーゼがやればいいことだ。
いずれ男に戻る僕には関係のない話だ。
「エリーゼちゃんアキラくん呼んでるよ」
と別の先輩から声が。
「わーっ!」と慌ててしまう。
「頑張ってね!」と背中に押されるけど、ちがーうっ!
女子寮から外に出るとアキラが手を振る。
こころなしか幸せそうな顔をしているようにみえる。
「なに?」
まさか、まさか、デートしようというわけじゃ……。
「聞かせてくれよ」
何を……?
まさか、僕の恋心を?
だが、声のトーンを落としていてシリアスな話をしようとしていることがわかった。
「サリエリさんを元に戻す方法があるって聞いたが教えてくれ」




