アキラ育成計画
エリーゼになったエリック視点
アキラは、僕のアドバイスに忠実に従って、ベーシックファイアーの呪文を詠唱する。
はっきり言って、今のアキラは上位魔法のアドバンスファイアーができる実力は兼ね備えている。
なぜ、下位魔法のベーシックファイアーの呪文を唱えるように言ったのか。
それは、ベーシックの名の通り、これが魔法の基礎力をあげるトレーニングになるからだ。
アキラは古語の発音が苦手だが歌唱力は抜群だ。
実技を兼ねながら、古語の基本発音のトレーニングになりつつ、歌唱力も伸ばすことができる。
一石三鳥の効果が期待できる。
それが、今は地味な効果であっても、中長期的なアキラ育成計画に大きく役に立つのだ。
絶体絶命のピンチだから、アドバンスファイアーを唱えるべきでは?
という疑問もあろうが、彼が育つまでは、今は僕の伴奏魔法で威力をあげればいいだけのことだ。
僕は女声魔法に絶対の自信がある。
「な、なに、ベーシックなのに俺のアドバンスよりも強力だと?ぐあああ!」
炎が機械の体を包む。
勝負あった。
「ベーシックであんな威力だなんて……アキラのやつ強くなったなぁ」
なんて感嘆が聞こえる。
まあ、この威力は僕の伴奏魔法のおかげなんですけどねっ。
言わないけど。
倒れている機械人形にアキラは歩いてゆっくりと近づく。
「待って!」と止めるのは花嫁、ナーシャだ。
「サリエリは悪い人じゃないの!」
「花婿の命を奪おうとしたんだぞ。放っておくと再び命を狙ってくる」
アキラが言うことは、当然だし僕も深くうなづく。
「魔が差しただけだと思う。私からのお願い、わがままな女だと思って許して」
「ナーシャ以外も同じ意見ですか?」
ナーシャの独断でこんな大事なことを決めるわけにはいかず、アキラが聞くと、村人たちはうなづく。
「アキラ。こやつにもう一度生きるチャンスをあげてくれないか。わしからもお願いだ」と長老の深々と。
「しかし、こんな機械の体になった人間を元に戻す方法なんてあるのかな?」
「ある」
僕はそこではじめて口を挟んだ。
「無機物に宿った人間の魂を元の体に戻す魔法書。それを手に入れる方法を私は知っている。だけど、それより先に」
機械人形の体を調べる。
「やっぱり……」
機械人形に大きな物体が付いているのを発見する。
「自爆装置よ。このまま放っておくと爆発する。みんな逃げて!」
村人たちは再び四方八方に散った。
負けたら爆発するように仕掛けられているが、何が起きているかはわからないが、起爆しない。
今のうちに解除する必要がある。
男声魔法であれば1分で解除できるが、アキラはまだ習得していない。
女声魔法であれば10分かかる。
アキラに解除魔法を指南するべきか……。
僕は迷ったが女声魔法でやることにした。




