耳コピ魔法と防御壁
エリーゼになったエリック視点
「遅れてごめん。ナーシャ!だが、なんとかピンチには間に合ったようだ」
とアキラはあやまる。
まったくだよ。
僕が女としての結婚式参列の慣れない身支度をすることにあたふたするだろうと見越してせっかく早起きしたのにアキラったら寝坊しちゃって!
ナーシャさんから、『アキラとそのペア様』という宛先で結婚式への招待状が先日届いたのだ。
村と親密な関係にあるアキラが呼ばれることは当たり前だが、そのペアである僕も呼ばれるとはどういう風の吹き回しだろうか。
「貴様!俺に何をした!」と機械は荒ぶる。
「衝撃波の魔法かな。耳コピしたんだ」とアキラ。
先日のショパンとの戦いのことを言っているようだ。
何度も食らっているうちに覚えたというのか。
そんなに難しい旋律ではないとはいえ、大した音楽的センスだ。
僕が才能を見込んだだけのことはある。
「野郎!なめた真似をしやがって!ぶっ潰してやる!」
再びアドバンスファイアーの詠唱を機械人形ははじめる。
「みんな!逃げて!また炎が来る!」
僕の言葉を合図に各々が散り散りに去っていく。
杖をついた老夫婦が取り残された。
危ない。
「くっ!まだ、この体になってから試していない呪文だが、やってみるか」
ワイドレンジファイアーシールドの魔法を詠唱する。
広範囲を炎から守ることができる優れものの呪文だが、範囲が広い分、詠唱も難しく、かつ、成功したとしても、効果は若干弱くなる。
その分、防壁が強くなるように、音階、リズム、強弱を完璧にコントロールして詠唱しなければならない。
この魔法はブレスまでの息継ぎが難しい。
ロングトーンができなかったこの体に耐えられるか。
いや、この体になってから欠かさずボイトレと喉のケアをやってきたんだ。
自分を信じるしかない。
「ワイドレンジファイアーシールド!」
防壁は効果抜群だった。
灼熱の炎があたりを焼き尽くすはずだが、温泉程度の熱しかやってこない。
「効かないだと?何者だ貴様ら!」
「世界最強のラブラブカップルのアキラとエリーゼだ」
アキラのセリフに僕の頭がどっかーんとなる。
ちょっと!恥ずかしいこと言いすぎだよ。
ただでさえ、バルバラ先輩にあんなこと言われて恥ずかしい思いをしているのに!
「さて、こっちの番だ。頼んだぞエリーゼ」
命令口調にドキンとなる。
頼もしい!
魔法の詠唱を彼ははじめる。
ベーシックファイアーだ。
僕も伴奏呪文を唱え始める。
この組み合わせがうまくいけば最大で呪文の威力を3.5倍にする。




