バルバラ先輩の性教育
エリーゼになったエリック視点
「バルバラ先輩が呼んでるわよ」
休日の午後、女子寮でゆるりと紅茶を飲んでいたら、同室のクララが呼び出した。
いくら僕と仲が悪いとはいえ、事務的な連絡を村八分にするほどは非情ではないようだ。
バルバラ先輩は、僕にお化粧や女子のたしなみを教えてくれた人。
あまりに身だしなみに無頓着だったので、世話をやいてくれて、なんとか今は僕もそれなりに女子としてやっていけている。
同級生の間で評判が悪い僕も、上級生はそんなことは関係なしに、かわいがってくれているのだ。
「先輩。どうしたんですか?」
「一緒に赤ちゃん見に行かない?」
「は、はあ」
世話になっている先輩の言うことだし、無下に断ることもないし、忙しいわけでもないので、ついていくことにした。
「学内保育制度知ってる?」
「はい。まあ、一応は」
ミラヴェニア魔法学校は男女をペアにする制度を採用している。
男女のペアのうち何組かは大人の男と女の関係を持ち、子を孕み、そして、在学中に出産する。
一度は少子化で経済が潰れかけたこの国においては、学生出産は推奨されており、出産した女子生徒に対しては、学内保育園の無料利用ができる上に国から補助金を貰えるという手厚い待遇を受けることができる。
「私も2年生のとき出産してね。普段は授業を受けなきゃいけないから、保育園に預かってもらっているんだけど、親らしく顔も見せにいってあげなきゃと思ってね」
保育園は学校の別棟のワンルームにあった。
「こんにちはー」
「ああ、バルバラさん。いらっしゃい。ニコラくん、今、絵本を読んでたところですよ」
「ええ、もう読めるんですか?」
「どうぶつの名前が書いてある絵本ですね。シマウマがお気に入りみたいで」
たわいもない日常の過ごし方についてのやりとりをする。
「ニコラくーん。ママがきましたよ」
「私のことママってわかるかしら」
不安そうにバルバラ先輩は言った。
すると、保育士さんに導かれて、青いベビー服の男の子がよちよちと歩いてきた。
そして、バルバラ先輩の姿を確認するとにこっとした笑顔を見せ立ち上がった。
「マンマ!」
バルバラ先輩のほおが緩み、抱きしめる。
「良かった。私のことがわかるのね」
小さなあんよをなでなでする。
「勉強ばかりしてて、なかなか来れないから、私のことわからないかと思って……」
「お母さんのことはわかるんですよ。愛情があるからでしょうね」と保育士さん。
目じりからはじんわりと涙。
ほほえましい光景を見れたところで、僕たちは帰宅の途についた。
「かわいかったですね」
「ねー」
女子っぽい共感ベースの会話をしてしまう。
「じゃあ、私からの性教育はこれで終わり。頑張ってね」
「性教育?頑張るって何を?」
「子作り」
「!?」
「うふふ。そんな驚いた顔しなくていいじゃない。あなたたちアキラ&エリーゼペアの噂は聞いているわよ。そろそろ、大人の男女の仲になる頃だって」
「ち、ちがう!アキラとはそんな関係じゃ!単に彼を成り上がらせるために手助けしたかっただけで」
僕たちは男同士、まったくの誤解である。
「ふふ。学内にいちゃいちゃ指数計測魔法がかけられてるって知ってた?それによると、あなたたちの親密度は85、普通は90を超えたら関係を持つカップルが多いわね。あなたが、将来、アキラくんの子どもを産む確率は今のところ95%。ほぼほぼ確定に近いわね」
そ、そんなことを言われたらアキラを異性としてこれまで以上に意識してしまうじゃないか。
僕の正体はエリック。
いつか男の体に戻るはずなんだ。
母親になる未来などありえない。




