音楽は本物の魔法
エリーゼになったエリック視点
「歌います。ハイトーンドリーム」
僕は礼をすると客席のざわめきは静まった。
まばらだが、拍手が聞こえる。
舞台裏でアキラが、音楽を流し始める。
ストリングス魔法を歌の伴奏に使うなんて発想は僕にはなかった。
「愛するあなたを~瞳に~映して~♪」
古語ではなく現代語による歌詞で僕は歌い始めた。
通常、歌というものは魔法を唱えるためのものであって、古語の歌詞しかつかない。
現代語の歌詞など常識外れである。
アキラがこの楽譜を持ち込むまでそんなこと考えたことなかった。
人を感動させるための音楽、人に愛のすばらしさを伝えるための歌だなんて前代未聞だ。
ラブソングと呼ばれるものらしい。
純粋に歌う喜びに僕は満たされていた。
アキラの言うAメロBメロを歌い、サビと呼ばれるパートを歌う
「みにくいあひるの子のままでもいい♪あなたと一緒にいられるのなら♪」
テーマ性、物語性のある曲に対して観客席は驚きに包まれていた。
何せこうして歌っている僕ですら驚いている。
そして、後は、アドリブを挟み、変則のサビを歌えば曲は終了する。
古語で歌うことにした。
みにくいあひるの子の詠唱魔法と同じ歌詞の歌を。
すると、僕の体に異変が起きた。
体をまばゆい光が包む。
何が、何が僕の体に起きてるの!?
「孔雀、孔雀だわ!」
美しい羽根が生え、体中に広がる。
どうやら、僕の体は孔雀になっているようだ。
ハイトーンドリームの変則サビを再び歌い終えた僕は、深々と頭をさげた。
ぱちぱち。
一人が拍手をするとそれにつられて、満場の拍手。
スタンディングオベーションが巻き起こった。
僕は、僕は、この舞台を成功させたのだ。
孔雀になる魔法だなんて、未発見だったはず。
僕はアドリブ歌唱で未発見の魔法を見つけてしまったのだ。
これは、後で知ったことだが、突然のハプニングで、誰もカメラを回していなかったらしい。
だから、孔雀になる魔法は、一度詠唱されたきり、誰にも再現できない幻の魔法となってしまったのだ。
アキラが舞台裏からピースサインをする。
「すごかった」
「私はあんたはやるやつだって思ってたね」
と、女子寮でも掌返しがくるくると感謝感激雨霰。
「アキラのおかげだってば」と言うと「ノロケちゃって」とからかわれる。
もちろん「天狗になってんじゃないよ」と釘を刺す子もいたことは確かだが、僕が女子寮の中での居心地が少し良くなったことは確かだった。
音楽って本物の魔法かもしれない。




