みにくいあひるの子
アキラ目線
「みにくいあひるの子!?」
アンデルセン童話の名前をこの世界に来て、耳にするとは思わなかった。
醜い姿でいじめられていたあひるの子どもが、大人になって白鳥として羽ばたくあの昔話である。
確かに、どんな社会からでも生まれそうな寓話性のあるプロットを持った話だったが、まさかそのまんまの話が存在するとは……。
「文化祭の出し物にすると?」
「そう。人気の演劇だからね」
僕の質問にソナタはあっけらかんと答える。
人気の演劇か。
僕のやってきた世界ではさすがに演劇の種目として人気のものではなかった。
中高生女子が好きそうな演目としてはシェークスピアのロミオとジュリエットってところだ。
童話なんてものは対象年齢が低いものとしてスルーされることだろう。
だが、今では、伝統となっている有名少女歌劇団の初めての出し物が桃太郎だったりするのは演劇史を追っていれば、周知の事実であり、童話も大人向けの演劇の出し物としては王道であるのも確かだった。
「しかし、僕の感覚から見たらさえない出し物だなあ」
「そんなことないよ。よそのクラスもみんな取り合いだったんだから」
「へえ」
そんな風に言われてみれば面白いストーリーに見えなくもない。
弱者だと思われていた子が実は天才だったという物語。
こんな社会的強者が集まったとも言えるこのエリート魔法学校でそんなものが共感されるのだなというのは一つの発見でもあった。
勝ち組だらけと思われたこの学校の生徒たちも社会に対して何か思うところがあるのだろうか。
「それで、うちのクラスに決まったんだ」
「そういうこと」
「で、そのことと僕と何が関係あるんだい?」」
「白鳥役がさ、エリーゼなのよ」
「ええっ!!」
「白鳥役つまりみにくいあひるの子といえば主役じゃないか」
「くじ運いいよねえ。嫉妬しちゃう」
ぐぎぎとソナタは歯ぎしりする。
「それで、なんで僕を呼び出したりしたんだい?」
「エリーゼったら、悩んでいるらしいのよ」
「悩んでるって…」
「この演劇ってさ、女子の変身魔法のスキルがものを言うでしょ?」
「ああ、そうか。着ぐるみとかするわけじゃないんだ。本当に動物に変身する魔法を使うわけか」
「そう。それでさ。何か悩んでるみたいなんだよ。私よりも君の方が、彼女のパートナーなわけだしさ。何か聞き出せないかなと思って」
「なるほど……」
僕は魔法のスペシャリストではない。
彼女の力になれることなど何かあるだろうか。
「これを見なさい」
「なるほど、これが白鳥になる楽譜か……ん?これは、ペンタトニックスケール!?」




