女は殺せない!殺し屋の苦悩
エリーゼになったエリック視点
どうやら、僕は尾行されているようだ。
こんなことになるくらいなら、歩きにくいバレエシューズを選ぶんじゃなかった。
ただでさえ遠出なんだしさ。
うう、せっかく女の子になったんだからと、ついついかわいいもの身に着けて帰りたくなるんだよね。
エリックだった頃から、かわいいものは大好きだったしさ。
リュックにつけた、うさぎのマスコットを模ったキーホルダをちらりと見やる。
前方を見やると6歳くらい子どもたちがサッカーをして遊んでいた。
周囲を見やると馬車が行き交っていた。
「こらっ!こんなところでボール遊びしたら危ないでしょ?馬車にぶつかったらどうするの?」
知らない子どもたちだが、ついつい世話を焼きたくなってしまい叱ってしまう。
背後の殺気も一瞬消える。
どうやら、暴漢もこんな大通りで騒ぎごとを起こしたくないようである。
「ごめんなさいお姉ちゃん」
「ほら、鼻水出てるよ」
僕はかがんで、身長を子どもに合わせるとハンカチを出して拭いた。
このあたりは貧乏暮らしをしている人も多く、子どもの栄養状態も良くない。
子どもの鼻にも栄養不足がやってきているのだ。
こんな子どもが苦しむことのない世の中にしたい。
そう思ってエリートコースに僕は進んだ。
子どものひとりのお腹の音がクーっとなる。
「みんなお腹すかせてるの?」
男の子たちはこくりとうなづく。
「そうだ!」
僕は魔法を詠唱する。
そして、何もない空間から、パンを人数分取り出す。
買い物をすることができる魔法だ。
魔法で買ったものはクレジットカードで引き落とされる。
「これ食べて元気になりな!」
「ありがとうお姉ちゃん!」
これでは、貧困の根本的な解決にはならないという思いを抱えつつ、僕は、再びエリーゼの実家に向かった。
殺気は再び僕に向けられた。
しまった。
大通りで誰かに助けを求めるべきだったか。
だが、不思議なことにその殺気には迷いがあった。
僕と子どもたちの交流を見て心に迷いが生じたのだろうか。
そんな人間が殺気など向けるだろうか。
謎は深まるばかりだった。
人通りの少ない農道に差し掛かったその時、殺気は動き出し僕めがけて襲い掛かった。
靴を脱ぎ、全力で走り、かまいたちの魔法で足早にするが、男の速度にはかなわず僕は、押し倒された。
女の非力さに僕は歯がゆくなる。
「エリーゼ、ここで会ったが100年目だ。死んでもらうぜ……!」
どうやらエリーゼとこの体と面識のある相手であるようだ。
背中からアイスピックのような刃物を取り出す。
ああ、僕は、こんなところで死ぬんだ。
元の体にも戻れずエリーゼとして死ぬんだ。
僕は男の顔を見たが、かなわぬと思うと、流し目で横を見やり涙を流した。
すると、暴漢は、震えだした。
「俺は……俺は……女を……心の奥底まで女に染まった人間を殺せないっ!」




