暗殺者はエリーゼを狙う
殺し屋目線
ついに見つけた。
殺しのターゲット、エリーゼ・オブルス。
長い髪を巻き上げ、丸眼鏡をはずし、ワンピースを着ていたものだから、わからなかった。
あいつが、あのエリーゼのやつが、まるで女みたいな装いをするとはな。
魔法学校とやらに行って心境でも変わったのか?
俺は訝しんだ。
俺の名前は、ワグナー。
下賤の身分だから苗字はない。
エリーゼのやつは幼馴染だ。
男にケンカをふっかけるいけ好かないやつだ。
俺たちが小学生のとき、女子をターゲットにスカートめくりをして遊んでいたら、短パン姿のエリーゼがやってきてコテンパンにぶちのめされてしまった。
苦々しい、ガキの日の思い出だ。
あの日以来、俺は強くなりたかった。
武術や剣術を学んだがそれだけでは飽き足らなかった。
殺し屋塾の門を叩いたのは中学生の時だった。
魔法、武術、スパイ術、学んだことは多岐にわたった。
俺は女に尊敬されることを目指し、強い男になった。
第二次性徴を迎え、男らしい体格になっても、マインドはあの頃のままだった。
だが、俺は殺し屋塾に置いてあった伝説の殺し屋が書いた自伝を読むうちにある思想に目覚めた。
女を決して傷つけてはならない。
ハードボイルドな男は、男だけの命を奪い、女に対しては紳士であれ。
その思想は俺の幼き日の屈辱と相反していたが、徐々に俺の心を侵食していった。
そんなある日だった、塾経由で知り合った斡旋業者からエリーゼ抹殺指令を受けたのは。
クライアントは誰なのか知らされず、手段は問わず。
とにかく、エリーゼを葬ったら多額の報酬を受け取れるとのことだった。
俺は迷った。
女を殺すのは俺の美学に外れる。
だが、エリーゼは、俺に屈辱を与えた相手である。
俺からしてみれば男勝り、いや、精神は男そのものである。
性格が男そのものの女を葬ったところで何の美学に反しようか。
しかし、時は過ぎ、俺たちは大人に近づいている。
もし、彼女が身も心も女に育っていたら……。
そうすれば俺は、やつを殺せないかもしれない。
今のやつの精神が男なのか女なのかこの目で見極める必要がある。
なんでもエリーゼは魔法学園に入学し、連休を利用して実家に帰ってくるとか。
その帰途を尾行して、隙あらば命を奪ってしまおう。
研いだナイフに舌なめずりして俺は暗殺の算段を立てた。
俺は美容院から出たエリーゼの尾行をはじめた。
だが、そのガーリーなファッションセンスに面食らってしまったのだった。
やつが女に目覚めたというのか。




