美容院に行ってみました
エリーゼになったエリック目線
「かわいいおさげにしてください」
僕は美容師さんにお願いした。
「へぇ、エリーゼちゃんがそんなこと言うなんて意外ねえ」
美容師さんはにっこりとほほ笑んだ。
僕は、連休を利用して、エリーゼの実家に向かう帰途だった。
エリーゼの長財布の中に美容室のカードが入っていたので、美容院というものの勝手がわからないのでそのお店を訪れてみることにしたのだった。
魔法学校ではお化粧というものは禁止されていたが、休日は別だ。
僕はうっすらと女子寮で同級生に嫌われていて無視されがちだったが、上級生まではそんな醜聞は及んでおらず、親切にお化粧のやり方を教えてもらったのだった。
せっかく女の子になったのだから、女の子にしか積めない人生経験を今のうちに積んでおくのも悪くなかった。
化粧品というものを買うお小遣いは僕にはなかった。
ファンデーション魔法、リップ魔法、マスカラ魔法などを使う方法を教えてもらった。
丸眼鏡もおもいっきり外してしまって、視力一時回復魔法を使ったりして。
お化粧魔法の音階というものは、女性の間で口伝で伝わるのが世の倣いで、学校で教えてもらえるわけでも書店に楽譜が並ぶわけでもなかった。
「エリーゼちゃんってさ。子どものころから、男勝りで、ショートカットにこだわりがあると思ってたわ。こんなに伸ばしちゃって。ようやく女に目覚めたのね」
美容師のおばちゃんが話しかけてくる。
その口っぷりから、きっと、子どもの頃から、エリーゼの成長を見守ってきたのだろう。
彼女に人生を奪われた僕も、逆に彼女の人生を奪っている。
その事実の重さを嚙み締めた。
「あ、そうだ。カール魔法教えてあげるわね。自分でおさげができるようにしないと」
彼女は魔法の詠唱をはじめると僕の肩まで伸びた髪がくるくるとまきあがり、ゴム止めされる。
「おお!」
我ながらかわいい。
エリーゼ、美少女のポテンシャルあるんじゃんと思った。
歌の音階をおばちゃんに教えてもらい、あわてて、メモをする。
これで、毎朝、おさげになる自分を楽しめるのか。
なんだか、人生にひとつトキメキができたような。
「また、来てね」
美容室を僕は後にした。
背後から殺気がする。
振り返るが誰もいない。
そうか、ここはエリーゼの実家の近くだ。
議員の関係者が命を狙ってきても不思議ではない。
そんな魔境に僕は足を踏み入れようとしているのだ。
実家に帰らない方がよかったか?
今から学園に戻っても……。
いや、ここから駅に向かうよりも実家に向かった方が早い。
ここは、近くに警察署のような建物もない住宅街だ。
こんなときアキラのような男性魔法の使い手がいれば…!
戻るべきか行くべきか僕は葛藤をしていた。




