スペシャルクッキー
アキラ目線
「できたわよー。愛情たっぷりのスペシャルクッキー」
エリーゼから紫色の物体を手渡される。
どうやら、これは、クッキーと世間一般で呼ばれる嗜好品であろうことは想像つく。
だがなんだこの毒々しさは。
「本当にこれ食べれるの?」
「魔法たっぷりで1位間違いなしよ」
本当かなと思いつつ、クッキーが放つ禍々しさに圧倒される。
キラキラ輝いた眼で見つめる彼女を見るとどうやら悪意がないことはわかる。
だが、本当にこれはおいしいのか?
匂いを嗅いでみるが、なにか下足のようなにおいがするぞ。
いや、これはきっとおいしいに違いない。
おもむろに口にする。
うっ。甘さを期待したけれど、苦みが来る。
いや、これは、きっと良薬口に苦しということわざにのっとったクッキーに違いない。
そうに違いない。
そうだ。
足に力がわいてくる。
みなぎってきた。
だが、それと引き換えに腹から力が急速に失われていった。
「さて、みんなクッキー食べたわね」
先生が徒競走用のピストルを握る。
生徒たちは横一列に並ぶので、僕もそれに倣う。
「よーい。パン」
ピストルは鳴り響き、僕たちは、一目散に飛び出した。
足が自分のものとは思えないほど早い。
短距離走タイプの筋肉が育ってない僕にしては上出来すぎるほど上出来だ。
他の生徒と比べても頭一つ飛び出し、この調子で走ると1位だ。
このまま、ゴールすれば、フェニックスクラスに行ける!
だが、僕の足が向かうのはゴールではなかった。
「トイレー!」
大便器に駆け込み、ゲロゲロしてしまう。
棄権になってしまうのはわかっていたが、腹がもたなかった。
「ごめんね。私が料理下手なばかりに……。お腹辛かったでしょ」
先ほどまでの嬉々とした顔とはうってかわり悲しそうな顔をする。
「でも、足が速くなったのは間違いないよ。エリーゼの愛情も受け取れたしさ」
「アキラ!」と抱きしめられる。
「私!がんばって料理上達する!いつか、アキラに本当においしいもの食べてもらうんだから」
「すげーバカップル」と周りが冷やかす。
はっはっは。
これでいいのか?




