合唱呪文
アキラ視点
「ペッパーは手ごわい。君たち学生は、外のモンスターの足止めをしてくれっ」
サルサさんから指示が飛ぶ。
「ですが!」とアレグロは口を挟むが、ソナタは制止する。
「異論はあるかもしれない。けど、指揮系統の乱れこそが死につながるわ」
「いいこと言う!」とエリーゼは賛同する。
確かに、戦いなれてきたプロの言うことである。
素直に聞いておいたほうがいいかもしれない。
僕たち4人はそそくさと外に出る。
「足止めと言われてもな……。モンスターはモンスターでそう簡単に倒せるもんじゃないし」
とふてくされるアレグロにエリーゼはすかさず助言。
「あなたたち、コンビアラウンドスローは唱えたことある?」
虚を突かれたかのような表情を二人は見せる。
「その手があったか」
「あなたなかなか賢いわね」
コンビアラウンドスロー。
その呪文名は確かテキストで見たことがある。
テナーとソプラノの合唱で唱える呪文。
敵の動きを一時的にゆっくりにする女声呪文を、男声で範囲を拡大するのだ。
「やったことはないが、楽譜は頭に入ってるぜ」
「私も」
そう言うと、アレグロとソナタのペアは呪文の詠唱をはじめると、空間がねじ曲がったかのように周囲の色彩が狂った。
魔法が効いているのか。
遠くにいる魔物の動きがゆっくりになる。
「さあ、私たちも唱えるわよ。ロングファイアーを」
「ろ、ろんぐふぁいあー?そんなの唱えたことないよ」
「あなたはいつも通り、ベーシックファイアーを唱えていればいい。そこに私がハモるだけ。絶対に私の音階につられないでね」
「わかった」
よくわからないが言われたようにするしかない。
「まず、90度の方向を向いて」
「こうか!」
学校から配布されたコンパスを取り出し東を向く。
「ベーシックファイアー詠唱!」
言われたとおりにベーシックファイアーの呪文を詠唱する。
エリーゼが一緒にハモるがつられないようにする。
すると、練習の時には、5m先までしか飛ばなかった火炎が、火炎玉になり、はるか遠方に発射された。
「ギィッ!」
メイジゴブリンの1匹に命中し、周囲の木にも燃え広がった。
「ナイス!よくやったわ!次は75度の方向」
言われた方向に向き、再びベーシックファイアーを詠唱する。
「ガガガッ!」
再び命中する。
いけるか。
すると、向こうも火炎玉を飛ばしてくる。
被弾する!?




