将来の夢
アキラ視点
僕たちは貨物汽車に揺られて博物館に向かっていた。
電車の左側の窓には、草木がまばらに生えるだけの荒野が広がる。
右側は、荒々しい砂利に仕切られて、海岸が広がっており水平線の向こうに何があるかは見えない。
まるでスチームパンクの世界にやってきたようだ。
テレビやタブレットがあったと思えば、交通網が汽車だったり、科学文明の発展度は、僕らの世界の基準からみればちぐはぐのように見えた。
キリンクラスの他のメンバーや学校の先生とは切り離され、屈強な軍人2名が僕たちを引率していた。
軍人さんは、サルサさんとペッパーさん。
階級は少尉と軍曹らしい。
将校さんに案内してもらえるなどとは、学園の生徒がいかに丁重にもてなされているかがわかる。
「あのー。大丈夫?」
僕は、エリーゼのことが心配になってに話しかける。
「何が?」と聞き返される。
「いや……その……」
僕が言いよどんでいると、しばらくたって彼女も生理のことを言われていることを察する。
「ああ。さすがにあれから1週間経ってるから大丈夫だよ。心配してくれてありがと」
にこっとした笑顔に僕の胸はドキッとする。
本当、記憶を失ってから急にお淑やかになったなあ。
かわいいなあなんて、にへりとしていると横やりが入る。
「いちゃいちゃしてるとこ申し訳ないけどよ。魔法帽はしっかりと被った方がいいと思うぜ」
横やりを入れたのは、班のメンバーの一人、アレグロだ。
「あ、ああ、ちょっと暑くて脱いでしまった」
「戦場だと頭を撃ち抜かれたら一発でお陀仏なんだ。この列車だっていつ襲われるかわからないぜ」
「しかし、こんなぺらぺらの素材で防御になるのかなあ。不思議」と僕が返すと
「時間をかけて防御呪文が練りこまれているからバカにならないわよ」
とさらに口をはさむのはアレグロとペアになっているソナタ。
「防具工場の魔法部は、ミラヴェニアの女子生徒にとって有力な卒業後の就職先ね。キリンクラスの子でも行きたいって言ってる子、何人かいるんだから」
「へえ……ソナタさんもそっちへ進路取ろうとしてるの?」
「まさか。私は田舎に帰って農業したいかな。土壌魔法や天候魔法、遺伝魔法なんかを駆使してね」
「へー、いい夢じゃないか。アレグロは?」
「俺はトレジャーハンターになりたいな。未知のお宝を追い求める!」
「えー!ガキじゃん」
「やかましい!夢くらい見てもいいだろ!」
とプチ漫才をアレグロとソナタは繰り広げる。
その様子をサルサは生暖かく見守っていた。
「こんな子どもたちが夢を見るような平和な世の中にしたいものだな。なあ、ペッパーよ。あれ?ペッパーはどこに行った?」
「ええ。大事な電話をしたいとかいって、貨物車両に」とエリーゼが返す。
まだ、僕たちはペッパー軍曹の裏切りを疑わず嵐の前の静けさを楽しんでいた。




