エリーゼの復讐
アキラ視点
「どうした?ぼーっとして」
寮のベッドに座っているとハンスが突然話しかけてきた。
「い、いや。なんでもない」
絵にかいたように狼狽している自分に驚く。
「はっはっは。エリーゼにでも惚れたか?」
「な、そんなわけ!」
こちらの反論にろくに取り合わずハンスは真剣なまなざしと声色で続ける。
「なんで組んだのか知らんがあの女に深入りするのはやめておけ」
「どういうこと?」
「あの女は、ある男への復讐のために生きている」
ハンスの話はこうだ。
彼女の父親はジャーナリストだった。
彼はとある連邦議員のことを追っていた。
連邦議員が魔族に人間をいけにえに捧げ、見返りの金で私腹を肥やしているという、噂話は市井で出回っていたが、裏付けがない。
デマかとも思われていたが、彼女の父親は頑なにあきらめず情報収集を続けていた。
そして、ある日、彼は水死体で発見された。
亡骸の横でエリーゼは泣き崩れていた。
「うわああああああ。おとうさああん」
街の人たちはエリーゼは復讐を計画していると噂した。
非力な平民の女である己を呪い、ミラヴェニア魔法学校に入学してエリートになろうとしていると。
警察官僚になって一般庶民ではアクセスできない情報を得られる立場になろうとしていると。
「バカな女だよ。俺みたいな同郷の出身なだけで、完全に赤の他人の俺ですら、そんな企みを知っている。そんなの、議員の関係者にも当然マークされているに決まっている。そんな状態で、たとえ、この学校で、優秀な成績をおさめたくらいのことで警察官僚になんてなれるものか。だいたい、警察は攻撃魔法のスキルがものを言う男声社会だ。女の身で成り上がれるわけがない」
情報の海に流されそうになるが、彼の言うことを一つずつ租借してしていく。
「だから、エリーゼが誰と組むか興味はあったんだが、まさか、キリンクラスのお前とはねえ。いや、お前が悪いやつだって言いたいんじゃないんだ。もっと優等生に食らいついてでもコンビになるものだと思っていたんだ。キリンクラスに割り振られるってことはわざと退学を目指しているようなもんだろ?確かに自分の身は、それで、安全になるかもしれない。でも、彼女の本来の目標からは遠ざかる」
謎は深まっていくばかりだ。
「ちなみに……」
僕はハンスに質問することにした。
「そのことを彼女に直接質問をぶつけてもいい?ペアだから彼女の考えてることは知っておきたいから」
「まあ、別にいいんじゃないか?あ、でも俺から聞いたってことは伏せておいてくれよな!」
ハンスは部屋を出る。
「復讐か……」
僕は考える。
エリーゼの気持ちはわかるけど、音楽を復讐の道具として考えてほしくないな。
エリーゼには音楽が持つ本来の素晴らしさをしってほしい。




