さようなら女子の人格 こんにちは男子の人格
アキラ視点
入学式が終わって1週間過ぎたある晩、僕はエリーゼに呼び出された。
彼女は気合の入ったドレスを着て、何かのパーティーに参加するかのようだった。
「こんばんは」
フリルをひらりと見せつけるように揺らめかせる。
「どうしたの?改まって」
「ちょっとご挨拶をしようと思ってね」
「なんの?」
「ヒミツ」
指を唇の前に差し出した。
思わせぶりなことを言う。
「こうやって私が女の子してられるのも最後だなと思ってね。その記念」
そういうと、僕に投げキッスをした。
「な、な、な、な、」
「私、生まれ変わるの!ばいばい!」
そう言って彼女は走り去っていった。
周囲からどんな風に見えているのかわからないが、きっと僕は赤い顔をしていたに違いなかった。
どういうことだろうか?
僕のことが好き?
愛の告白と言うことだろうか。
恋愛経験のない僕には彼女の考えていることがさっぱりとわからなかった。
次の朝、クラスの自分の席に向かうと先にエリーゼが座っていた。
いつもであれば、遅刻ギリギリにやってくるのに不思議である。
僕は、彼女の真意を知りたくて語り掛ける。
「あのさ……昨日のことだけどさ」
「はわわ。ごめんなさい。私、昨日までの記憶がないの!」
僕の右手を彼女が両手でぎゅっと握りしめて上目遣いでこちらを見つめる。
なにこのかわいいリアクション。
昨日まで、鋭い目つきだったのが心なしか垂れ目になったようにすら見える。
「昨日までの記憶がないってどういうこと?」
「私、自分がエリーゼ・オブルスだっていうことはわかるんですけど、入学してから今まで何をしてきたか記憶が欠落しているんです!どういういきさつであなたとペアになったか教えていただけますか?」
謎めいた行動の理由を知りたかったのに、彼女から謎をさらにぶつけられてしまった。
「ダメですか?」
かわいい泣き顔をぶつけられるとついつい仕方なく、入学式から思い出せる範囲で彼女が僕とペアを組んだ理由にはじまり、思い出せる限りの彼女の言動について話して、彼女は、それにうんうんとうなづいている。
なぜ、こうも一晩で彼女は急に魅力的な雰囲気を身に着けたのだろうか。
一通り説明を聞いた彼女はさらに謎めいたことを言い出す。
「なるほど。わかりました。昨日までの私は、退学になってしまうくらいに落ちぶれようと思って、わざとあなたと組んだのですね」
すごく失礼なことを言われている気がした。
「ごめんなさい!」
と。彼女は僕の表情の変化を読み取ったのか深く頭を下げた。
記憶を失っている間にやったことを謝罪している?
いったい何が彼女の身に起きているのだろうか。




