戦争への道
アキラ視点
魔王軍が連合王国軍に対して軍事行動をしている。
そのニュースを僕が知ったのはナーシャからの手紙だった。
この世界の一般的な人たちは、そのような情報は当然のように知っていたが、この世界のルールをいまだよく把握していない僕は知らなかった。
エリーゼにも「はあ?そんなことも知らないの?あんた天然なの?」なんて、手厳しいことを言われる始末。
あわてて、学校から配布された魔法辞書の中から、ニュース魔法を探し出し、詠唱する。
ドイツ民謡の「カエルの歌」くらいの難易度のシンプルな五線譜で構成されており、難なく唱えることができた。
「魔王軍の軍事行動は日に日に拡大しています。連合王国は学徒出陣を検討しているようです」
学徒出陣。
その言葉は日本の義務教育を受けている僕は当然知っている。
1943年、戦火が広がり、第二次世界大戦の敗色が濃厚となってきた日本において、徴兵だけでは兵士の数を補いきれなくなった軍部は、学生を戦地に送るようになったという。
中でも集団自決をした看護系女学生たちの話は大きくページを割いて、戦争による人類の罪として紹介されていた。
当時の価値観は、現代の価値観とは違うことを考慮に入れても、こんなことは、よほど、国の台所事情が苦しくなければやらないはずである。
「お、戦争のニュースか?俺たちもこれから初陣かと思うと武者震いするよな」
男子寮の同室に帰ってきたハンスが春先には寒すぎるタンクトップ姿でそう話しかけてくる。
中世のサムライのような口ぶりだ。
「戦争が怖くないの?」
「男だったら一度は戦うのは名誉なことだろ?何女々しいこと言ってるんだ?そんなのんきなこと言ってたら、お前、戦場で死んでしまうぞ。がっはっは」
けろっとした顔でそんなことを言い放つ。
このセリフに僕は脳幹を撃ち抜かれた思いをした。
きっとこれは、ハンス特有の価値観ではない、この世界で広く共有されている価値観であることが直感的にわかったからである。
日本の平安時代、1180年にあったとされる富士川の戦い。
源氏の兵士と平氏の兵士が川を挟んでにらみあった。
平氏が源氏を討ち取ると思われていたある晩、川辺の水鳥が一斉に羽ばたいた。
その羽音に驚いた平氏は都に逃げ帰り、戦わずして逃げた。
それがきっかけで、源氏の勢いは増し、平氏は滅びへの道をたどっていった。
中世の男にとっては、男らしく戦えないというレッテルを張られることは一族滅亡にもつながることだったようだ。
ウィーン少年合唱団のような牧歌的な世界観。
そんな幻想を抱いていたが、それは儚くも打ち破られた。
生きるか死ぬかをかけて魔法学校に、皆、通っているのである。
ペア選びが真剣なのもうなづける。
「大丈夫か。ぼーっとした顔しているぞ。しっかりしろ」
とハンスの声掛けに対し、僕はぼんやりと思索していた。




