第五話 聖乃と雪乃
「……お姉、様？」
「雪、乃……？」
見つめ合う雪乃と聖乃の瓜二つな顔をキアとユシは交互に見た。
「もしかして、さっき話してた聖乃の双子の妹てんか？」
「アイツ、雪乃の双子の片割れくまか？ ア・クーマ星人といっしょにいるってことはアイツが悪の魔法少女くまね」
ユシの言葉に雪乃はハッと目を見開いた。
「お姉様が悪の魔法少女？ ……ユシ。あなた、悪の魔法少女を殺すために私に正義の魔法少女になれと言いましたわね？」
聖乃を見つめたまま雪乃は尋ねた。
「大体、そんな感じくまー」
「違うてん！ 悪の魔法少女から地球を守るのが正義の魔法少女てん！ テキトーなこと言ったらダメてんよ、テン・シー星人！」
「あぁ！？ 大体、あってるくま！」
「テン・シー星人なのにガラが悪いてーん！」
ユシに怒鳴られてキアは泣きながら聖乃の背中に隠れた。
そのあいだにも雪乃は尋ね続ける。
「ねえ、ユシ。正義の魔法少女はどんな魔法が使えるのかしら？」
「どんな魔法が使えるかは変身してみてからのお楽しみくま。でも、テン・シー星人の技術力を結集して作った正義の魔法少女的衣装に変身すれば肉体は強化されるくま。ア・クーマ星人にそんな技術力はないくま～」
「それじゃあ、私よりもずっと運動神経がよくて、私から逃げてばかりのお姉様を捕まえることもできるということかしら？」
ケラケラと笑うユシになんて目もくれず、雪乃は聖乃へと両腕を伸ばした。
「この手で殺すこともできるということかしら？」
期待に目を輝かせる雪乃を見てキアは聖乃の肩にしがみつくとぶるぶると震えた。
「嫌われてるって言ってたてんけどそんなに嫌われてたてんか？ 何したてんか、聖乃！？」
「何をしたんだろうな。私も理由が知りたい。直せるなら直したい。謝れるなら謝りたいんだけどな」
悲し気に笑う聖乃を見て雪乃はきょとんとした。
「嫌い？ 私が、お姉様のことを？ どうして……どうしてそんなひどいことを言うんですか、お姉様！」
雪乃の金切り声に今度は聖乃がきょとんとした。
「どうしてって……二階から鉢植えを落として私の頭をかち割ろうとしたり、オレンジジュースに毒を入れたり、弓で射ようとしたり……私のことを殺したいくらい嫌って、憎んでなきゃしないだろ！？」
「そりゃあ、家に帰りたくなくなるてん。不良じゃなかったてん」
「あぁ、やっぱり伝え方を間違えていたんですね！ 幼く愚かだった雪乃を許してください、お姉様！」
青い顔で言うキアは無視。雪乃は顔を両手で覆って泣き叫ぶように言った。
「間違え？ じゃあ、私の誤解だったのか？」
「お姉様は私よりもずっと運動神経が良いから小手先でどうにかしようとしてしまったんです」
「雪乃は私のことを嫌っても、憎んでも、殺そうとも……」
「私自身の手で殺らなければダメだったのに！ この手でお姉様の首を絞めなければ私の愛は伝わらなかったのに！」
「……って、やっぱりしてんじゃねえか、殺そうと！」
「でも、嫌っても憎んでもいません！」
「殺したいとは……」
「思っています！」
「殺したいのに嫌っても憎んでもないなんてことがあるかー！」
「いいえ、あります！」
やけっぱちで怒鳴る聖乃へと腕を伸ばしたまま雪乃はきっぱりと言った。
そして――。
「抱きしめたい、キスをしたい、まぐわいたい……殺したい」
伸ばした手にぐっと力を込めた。
「愛情表現は人によって違う。十五年の人生で私だって気が付きました。でも、私の愛情表現はこうなんです」
まるで聖乃の首を絞めるように。聖乃の首に指を食い込ませるように。
ポカンと口を開けて聞いていた聖乃だったが、そのうちにハハ……と声を出して笑い出した。
「なんだ、嫌われてたわけでも憎まれてたわけでもなかったのか」
「当然です。私にとってお姉様は半身。似ていて、似ていない、唯一無二の存在。愛おしいに決まっています。だから、殺したいんです」
「そっか。……そっか！」
聖乃は嬉しそうに笑って何度もうなずいた。〝殺したい〟と正面切って言われているのに、だ。
「ア・クーマ星人のキアにもさっぱりわからないてん」
「テン・シー星人のユシにもめちゃくちゃわかるくま」
キアはポカーンと口を開けて、ユシはうんうんとうなずきながら言う。
嬉しそうに笑っていた聖乃がふと表情を引き締めた。
「でも、大人しく殺されてはやれない」
