第四話 魔法少女と契約者
「家族も、双子のクアもキアに言うてん! 愛しいと思えない、殺したいと思えないって!」
「殺したいと思えないって……」
びーびーと泣きながら話すキアの頭をよしよしとなでながら聖乃は困り顔になった。
「キアだってわからないてん! でも、ア・クーマ星人は美しいとか愛しいとか思ったら殺したり破壊したくなるらしいてん! 双子ならなおのこと、愛しくて殺したくなるらしいてん! でも、でも……クアはキアのことを……びーえぇぇぇーーー!」
「よしよし、よしよし」
「キアだってこんなに美しい地球を破壊なんてしたくないてん! ちょっとも傷つけたくないてん! でも、悪の魔法少女の契約者に選ばれることは名誉なことてん! 立派に役目を果たして来いって言われたてん! 〝悪の魔法少女と契約できればア・クーマ星人として一人前くま。クアもキアのことをきっと殺したくなるくま〟って言われたてん!」
「殺したく……」
「殺されたくはないけど愛されてないのはもっといやてん! キアだって家族やクアに愛されたいてん! 愛されたいてーーーん!」
よしよしとキアの頭をなでながら聖乃は苦笑いを浮かべた。
「キアも双子なんだな」
「キアも……ってことは聖乃もてんか?」
聖乃はうなずいた。
「正直、キアの話を聞いててよくわかんねえなってなるところは多いけどさ。私も双子の妹に嫌われてるクチだから愛されたいって気持ちはよくわかる。だからさ、キアと契約して魔法少女になってやるよ」
聖乃の答えにキアは目をぱちくりさせた。
「いいてんか? 悪の魔法少女てんよ? 地球を破壊するてんよ?」
「んー、地球を破壊するってのはちょっと困るなぁ」
ポリポリと額をかいて考え込んでいた聖乃がふと顔をあげた。
「なぁ、キア。悪の魔法少女と正義の魔法少女は何回も戦ってるんだよな」
「そうてん。ア・クーマ星人とテン・シー星人が広い広い宇宙で出会って数万年。九九九九回、戦っているてん。今回で一万回目てん」
「何勝何敗だ」
「〇勝九九九九敗。ア・クーマ星人と悪の魔法少女の全敗てん」
キアが困り顔ながらも笑っているのは内心でほっとしているからだろう。なにせア・クーマ星人と悪の魔法少女が一勝でもしていたら美しくて愛しい何かが破壊されてしまったということになるのだから。
「ア・クーマ星人の愛情表現は広い宇宙でも特殊。どの星でも正義の魔法少女は同星者からの協力を得やすいてん。それにア・クーマ星人と共鳴して悪の魔法少女になる者も少ないてん。少ない中から選ばれるてん、結果的に悪の魔法少女は正義の魔法少女よりポテンシャルが低いてん」
「なるほどな」
ふむふむと聞いていた聖乃がニヤリと笑った。
「つまり悪の魔法少女が正義の魔法少女にボッコボコに負かされたとしても悪の魔法少女の契約者であるキアがそこまで怒られたり責められたりすることはないってことか?」
「そうてんね? 〝また負けちゃったくまか~〟くらいの反応てんね」
「つまり、とりあえず悪の魔法少女と契約して地球を破壊しようとがんばったって事実があれば胸張ってお前は家に帰れるってことだな?」
「そう、てんね。……そうてんね! そうてんね!!」
勢いよくうなずくキアの目がキラキラと輝き始めた。
「事情を話せば正義の魔法少女はきっと協力してくれるてん! 今までの戦いでも正義の魔法少女が苦戦していたのは悪の魔法少女を説得しようとしていたからてん! 戦いを避けようとしていたからてん!」
「それじゃあ、事情を話して演技に付き合ってもらおうぜ! テキトーに戦ってる風を装って、イイ感じに負けて、悪の魔法少女と契約はできたしがんばったけど負けちゃいましたーって言って家族の……お前の双子んところに帰るんだ!」
「そうしたら褒めてくれるてんかね。キアのことを自慢の片割れだって、クアも言ってくれるてんかね」
目を潤ませるキアに聖乃はニッと唇をあげて笑うと拳を突き出した。
「自慢の片割れだって言ってもらえるようにがんばろうぜ」
キアは力一杯うなずくと聖乃の拳にふわふわの拳をぶつけた。
「ありがとうてん。聖乃が悪の魔法少女で……キアの契約者でよかったてん!」
「礼を言うのはまだ早えよ。とりあえず正義の魔法少女を探しに行くぞ」
「正義の魔法少女の居場所はわからないてんけど、契約者であるテン・シー星人の居場所ならすぐにわかるてん。なにせ地球にいる地球外生命体は片手で数えられるほどてん。においがぜーんぜん違うからすぐにわかるてん。こっちてんよー!」
「おうよー!」
鼻をひくひくさせながらふよふよと飛んでいくキアのあとを聖乃は笑顔で追いかけた。
その笑顔は――。
「いたてん! テン・シー星人てん! きっといっしょにいる女の子が正義の魔法少女てーん!」
キアが指さした先でふよふよ浮いているクマだかテディベアだかな何かと――。
「……お姉、様?」
その隣に立つ雪乃を見た瞬間――。
「雪、乃……?」
盛大に引きつることになるのだった。