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side遊星

2組は本当にいいクラスだった。授業中騒ぐ者はいないし、積極的に取り組み質問も自らしてくる。

自分の高校生のときのほうが緩かったかもしれない、と、遊星は今更ながら反省していた。

「先生、課題持ってきました。」

教員室の扉に手をかけた瞬間いきなり声をかけられて、思わずびくっとしてしまった。振り向くと、ショートカットの女の子が立っている。

「驚かしてすみません」

謝る彼女。……ん?課題?2組にこんな子──

「──こんな子いたっけ、って思いましたよね」

「あっ、いや……その」

「言い訳とか大丈夫です、わかってますから。」

目を覆い隠すくらい長い前髪、黒いメガネ。メガネの奥に見える、強気な目。

「28番の玉枝菜奈芽です。クラス委員が課題を回収するように言っていたので持ってきました。」

「……玉枝さん……。じゃあ、クラス委員……?」

「いえ、雨宮先生はまだ新任でおわかりにならないと思いますが、僕はいわゆる雑務です。あと、名前でわかる通り、英語教諭の玉枝穂実の妹です。なので、名字で呼ばないでいただけると嬉しいです。」

単調な声で言った。玉枝……あ。よく考えたらそうだ。

「わかった。ありがとう、菜奈芽さん。」

一礼。なんというか、生真面目というか、変というか。

「あの、雑務ってなに?クラス委員は?」

「事実上のクラスは姫野さんですが、“2組のシステム”上、僕は雑務です。なのでこれから、大抵のことでお世話になると思いますが、よろしくお願いします。雨宮先生も、いずれ“2組のシステム”に慣れればわかると思います。」

「2組の、システム……」

どういう意味なのだろう?

「では、失礼します。」

去っていく玉枝菜奈芽の後ろ姿は、頼りなかった。変わっているとはいえ普通の女の子のはずなのに、オーラや影、存在感といったものが感じられない。不思議な子だ。

そして、謎。2組の担任になって三週間が過ぎ、馴染めてきたものだと思っていたが……。

「雨宮先生?」

我に返ると、玉枝先生が心配そうに見ていた。

「あ、玉枝先生」

「どうしたんですか?」

「いや……玉枝先生って、妹さんがいらしたんですね」

「はぁ、まぁ……」

苦笑い。触れてはいけないところだったのか?

「シ──システム、2組のシステムってなんのことだかわかりますか?」

話題を変えようと慌ててふったのだが、予想を反してその場の空気はシラケていた──。


“2組のシステム”……その真の意味を遊星が知ったのは、それから3日後の放課後だった。

突然教頭から顧問を任された園芸同好会に顔を出すべく、遊星は旧校舎の一番端の小さな部室を訪れた。『園芸同好会』とどうにか読める古びて壊れたプレート。立て付けの悪くなった扉を開くと、中は薄暗い。

「誰もいないじゃないか……」

早く帰ろう、とため息をついた。そのとき、

「雨宮先生、なんのご用ですか?」

びくっ。

この声の女の子には、驚かされる──

「──菜奈芽さん」

いろいろ聞きたいことはあるがひとまず、

「こんなところでなにしてる?」

「こんなところって、雨宮先生」

くすっと笑う。暗くて見えないが、一瞬雰囲気が玉枝先生に似ていたような。

「部室で部活動を。」

「てことは、部員?」

「はい。」

遊星はにやっとして、部室の電気をつけた。

「それじゃあ、これからよろしくな」

「……顧問になられたんですか?」

ああ、とうなずいてみせる。

すると菜奈芽は、メガネをはずしはじめた。そしてうつむいていた顔をあげ、ふっと口の端を上げる……笑ったのか?

「んじゃあ、よろしくな、先生」

…………………………え?

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