表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヤンキー聖女の釘バッ道

作者: ゆずあめ

活動再開します&電車の中で書きました。

「あン? 舐めてっとぶっ飛ばッぞオラ!」


 教会裏の日陰にて、あるヤンキーの声が轟いた。

 ギラギラとした明るい色の髪を短く整え、生まれ持った真紅の瞳で睨みつけた対象は、一匹の小さな猫だった。

 担いだ釘バットで殴られると思ったのか、身構える子猫。恐る恐る瞼を開くと、少女が手を差し伸べていた。

 白く柔らかな手の先には、潰されたトマトがあった。


 ペロりと舐めてから、がっつく子猫。


「みゃう......」

「メシなら食ったろうが。足りねぇのか?」


 ここレスリッド聖神国には、聖女がいる。

 曰く、世界で最も素行が悪く、言葉遣いが汚く。

 曰く、初めて会う者は皆腰が引ける。

 曰く、誰よりも命を愛し、守る力がある。


 曰く、自らを「ヤンキー」と名乗る聖女だと。


「じゃあな、みゃー太。ウチはお祈りの時間だから」

「みゃぁ」

「ダメだ。神聖な教会にゃあ動物は入れねぇ」


 ワシャワシャと子猫を撫でた聖女は、振り返ることなく教会に戻る。

 異形蔓延るこの世界。神への祈りは生きる証だ。

 数多くいるシスターの中でも、最高位である聖女しか許されない、祭壇前の祈祷。

 目を閉じ、静かに祈りを捧げる姿は信徒の憧れだ。


「クリス、お前洗い物サボったな? お?」

「ひ、ひぃ!」

「それは『はい』か? あぁ?」


 祈祷が終わると、シスターの見回りに行く聖女。

 昨日炊き出しに使った食器を見ていると、洗い残しを発見した。

 担当していたクリスという少女に、聖女は詰める。


「ごご、ごめんなさい......」

「ったく、分からねぇなら聞け! いいか? 皿は洗ったら水気を切る。じゃなきゃ病気の元になる。お前がしっかりしないと、沢山の人が死ぬんだぞ!」

「はい......ぐすっ」

「ちゃんと紙に書いてやるから、これで忘れないだろ? もう泣くな」


 涙を流して謝るクリスを、聖女は強く抱き締めた。

 多くの人の命に関わる食品に関わる仕事には、一切の手を抜かない。洗い場から離れると、高位のシスターに徹底するよう指導した。

 そうして命を守り、繋げていくことも聖女の仕事。


「おい、仕事はあるか?」

「本日の依頼は全て受注済みです」

「はぁ? 嘘だろ? 魔物討伐も終わったのか?」

「そちらは現在受注中ですので、完了報告を待っています」


 街の外には魔物と呼ばれる異形で溢れており、木を伐採するのも大掛かりな仕事になる。

 聖女は教会で唯一『魔物狩り』の許可を得た者であり、狩人協会からの信頼も高く、頼りにされている。

 彼女の依頼達成率は、驚異の110パーセント。

 自身が受けた依頼の最中に他の狩人の依頼を手伝うため、上限を超えての達成率を叩き出した。


「しゃあねぇ、ボランティアで行くか」

「き、危険です! 今は魔物が活性化していることもあって、一人での外出は推奨できません!」

「知るか。こうしてる今も、その活性化した魔物に殺されそうなヤツがいるかもしれねぇ。ウチ、そういうの後悔するから嫌なんだよ」


 引き止める受付嬢を黙らせ、一人で街を出た。

 大自然と呼ぶに相応しい森や草原が広がるレスリッド聖神国は、人の手が入っていない地域も多く、比例して魔物も増える。

 狩人が多く集まる国だけに、戦死者も世界で随一。

 その昔、神々の戦いで流れた血から生まれたと言われる魔物は、野生動物の数倍は凶暴な生物だ。

 大型の魔物であれば、単体で生態系を破壊する。

 

 生態系を守るためにも、狩人が魔物を狩るのだ。


「ん? なンか飛んで来てねぇか?」


 釘バットを担いで草原を歩いていると、遠くの空を飛ぶ何かが見えた。じっと観察していて分かったのは、それが猛スピードで聖女に向かっていること。

 ニヤリと口角を上げ、片手で釘バットを構える。

 それが何か分かっても尚、構えは崩さない。


「ウチの街はウチが守る......来な、ワイバーン」

『ギャアアアアッ!!!』


 滑空するように現れた、赤い鱗に覆われた飛竜。

 聖女の前で地面を抉りながら着地すると、特徴的な口を開け、ブレスの準備を始めた。


 飛竜とは、最低でも10人の狩人が連携しながら戦う凶暴な魔物であり、単独で撃破しようものなら英雄になる。

 群れで小国を滅ぼした歴史もあるほど、機動力と殲滅力に長けた魔物だ。


 それでも、聖女は一人で戦う道を選ぶ。


「はっ、おっそ。そんなんでウチとヤルって?」


 凄まじい速度で駆けた聖女は、ブレスが届く前に懐へ潜り込んだ。先端を下に向け、暴力的な釘バットを握り締めると、釘が一本白く輝く。

 眩い光を放ちながら、釘バットを振り上げた。

 刹那、白い釘が爆発し、ワイバーンを絶命させた。


「ウチのバットが神サマの武器だって、知らないワケ? 出直して来やがれっての」


 聖女のみ持つことが許される、聖なる釘バット。

 救った命の数だけ釘が増え、その釘を使うことで魔を祓う、神から賜った武器。

 人を救い、魔を祓うことが聖女の神髄。

 どんな魔物にも臆せず立ち向かう、強靭な心を持つ者しか聖女にはなれない。


 故に、彼女の歩んだ道はこう言い伝われた。



 ヤンキー聖女の釘バッ道、と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ