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突然のことに頭が一瞬停止する。


「りょ、リョウちゃん!?」


「帰るんか」


「えっ···う、うん」


そのまま何も言わずスタスタと歩いていく。

昼休み真っ只中の校内は人で溢れ帰っていて注目の的だ。


いや待って恥ずかしすぎる!!



「ちょっ、大丈夫だから、おろして···」


「寝てろ」



慌てたようにユキヤ君が小走りでついてくる。

弟の歩調に合わせるように、リョウちゃんは少し歩くペースを落とした。

みんながこっちを見ていて、キャー!サクヤミヤ君だ!とか、あの人って不良のリーダーの···!?とかって聞こえてくる。

いたたまれなくなってリョウちゃんの胸元に顔を埋めると、満足そうにフッと笑った気配がした。


結局駅と電車では下ろしてもらえたけど、駅から出るとまたすぐ横抱きにされた。

大丈夫歩けると何度言っても「大丈夫じゃねえだろ」の一言でおろしてくれない様子に、諦めて身体をゆだねることにした。

ガッシリとした腕は力強く、落ちてしまいそうといった恐怖心は全くない。リョウちゃんの心臓の音がトクトクと聞こえてきて、こんなに密着したのは久しぶりだなあなんて呑気に思った。

あったかくて安心する匂いに、ついウトウトとしてしまう。私がグッタリと何も言わなくなったからか、ユキヤ君の心配そうな呟きが聞こえた。



「姉さん···」


「ユキヤ、上がっていいか」


「あっ、はい!リョウマさん、ありがとうございます」


弟たちのやりとりが聞こえてくるが、私は図々しくも半分寝入っていた。

リョウちゃんの腕の中からそっとベッドにおろされる。

ひんやりとしたシーツの感触にうっすら目を開けると、見慣れた自分の部屋が見えた。



「病院はどうすんだ」


「親にはメールしました」


「そうか」


リョウちゃんはウトウトしている私のメガネを両手で優しくそっと外すと、ベッド横のチェストに置いた。


「リョウちゃん···」


「ん?」


安心するあたたかさが離れていってしまって少しさみしくなる。

ついリョウちゃんのほうに手を伸ばしてしまうと、予想外に優しい声と手付きでその手を取ってくれた。暖かいおおきな手に包まれると、なぜかとっても眠くなる。


「ありがと···」


「···おう」


リョウちゃんはそっと私の手をベッドに置くと、前髪を一撫でして部屋を出ていった。



「リョウマさんありがとうございました!」


弟が慌てたように、階段をおりていくリョウちゃんに声をかける。

私はなんとか重い身体を起き上がらせて、制服のリボンとカーディガンを脱いだ。

部屋に戻ってきた弟が、私を見て固まる。



「ちょ、ちょっ、姉さん、なにやってんだよ!?」


珍しく激しく動揺した様子の弟がおおきな声をあげる。


「? 何って、着替え···」


「僕がいるだろ!」


「べつに全部脱ぐわけじゃないし···」


「出てくから待ってて!!あと明日は病院!荷物ここ置くから!」


「あっ待って」


慌てて出ていこうとするユキヤ君をなんとか呼び止めることに成功した。

顔が真っ赤だ。ユキヤ君も体調悪いって言ってたし、熱が上がってきたのかもしれない。



「ユキヤ君ありがとう。ごめんね」


「······ごめんはいらない」



そう言うとパタンとドアを閉めて出ていった。


ユキヤ君にもリョウちゃんにも迷惑かけちゃったなあとしょんぼりしながら制服のスカートを脱ぐ。

シャツと下着だけになるとそのままシャワーも浴びずベッドに潜り込んだ。

疲れきった身体はすでに限界を迎えていたようで、フトンをかぶった途端すぐに意識を手放したのだった。



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