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授業中、カスミは眠気を堪えるのに必死だった。


魔法少女としての活動は主に夜間のパトロールと魔族との戦闘である。もともと睡眠時間が長めの生活をしていたカスミにとっては予想外につらかった。


幸い部活には入っていない為、夜の代わりに夕方にパトロールして帰るという生活をしている。

だが魔族は基本的に夜行性なので、夜中にファウストに起こされて戦いに行くといったことも、この一週間ちょっとで何回かあった。

昼間に活動できるのは中~高位の魔族らしく、あまり出現しない。


だから映像として撮られると、ニュースで取り上げられて一気に広まる。


魔族は人を襲う。

人間の脅威である魔族を討つことができるのは魔力を持った魔法少女たちだけで、魔法少女は人々の救いであり希望なのだ。


少女たちは変身すると髪型やメイクなどで外見が変化するため、普段生活している姿とはかけ離れて見えるようになるらしい。親しい人が間近で見れば気付くかもしれないけれど、基本的に身バレはしない。

中には自ら公表してアイドル的扱いを受けている子もいるが、精霊の存在は他言できない契約らしく、魔法少女がどのようにして生まれるのかは誰にも知られていない。


ほとんどの魔法少女は撮られても、どこの誰かわからない。戦闘中は素早く動くし、魔法の衝撃で撮影者が近付けないのも大きな要因だ。

もしかしたら魔法庁が絡んでいるのかもしれないが、顔を間近で映せたことは今までない。

だからこの間の私のように、髪をかきあげながらゆったり歩く魔法少女なんてありえないのだ。

危なかった。画質が悪くなかったら普通に顔が写ってただろう。気を付けなきゃ。


魔法庁は魔族対策を考えるところだということは知っているけれど、くわしくはわからない。

神秘のベールに包まれた存在だ。

もしかして昔魔法少女だったお姉さんたちの組織なんじゃないかなんて噂されている。


私が変身した場合、肩までのストレートヘアが腰辺りまで伸びてゆるいウェーブがかかる。年齢も上がったように見える。とても10代の体つきではない。ボンテージスーツが似合ってしまうようなサイズに、バストとヒップが変わる。魔法少女というより魔女だ。


リョウちゃんに言われてメガネをかけててよかったと、最近心からそう思う。私はいつもメガネと前髪で顔を半分くらい隠して、目立たないように生きてきた陰キャなのだ。

実際のところはリョウちゃんに「前髪おろしてコレつけとけや」って言われて、ダサい黒ぶちメガネをプレゼントされたのが今の見た目になったきっかけなんだけど。当初はリョウちゃんに怯えて言われるがままつけてたけど、今では感謝さえしている。人見知りでビビりな私は、視界が狭い方が安心するのだ。


ただ、プレゼントしてくれたとき「外でそれ取ったら、どうなるかわかってんな···?」と言われたことは、今思い出しても震え上がる。

ど、どうするつもりなんだろう···



いつの間に不良のリーダーになっちゃったリョウちゃんはピアスだらけで制服を着崩して中に赤いTシャツでしかめ面という典型的な不良の見た目だ。

でも、悪いことはしていないようだ。

タバコ持ってる仲間を怒ってたのをみたことがあるし、どこかに集団で座り込んで迷惑をかけたり騒音でバイクで走ったりといった姿も見たことがない。

どちらかというと一匹狼なのに周りが寄ってきて鬱陶しがっているように見える。

髪の毛も染めてないし、そう考えると校則違反はピアスくらいだ。


あとは中学時代に喧嘩をやたらしてて、地域の高校生の不良グループまでまとめあげたと聞いたことがあるが、本当なのだろうか。

昔のリョウちゃんからは想像もできない変わりようだ。


一番後ろの席の私は、ななめ前の窓際に座っているリョウちゃんをチラッと見る。退屈そうに欠伸をしていたが、ちゃんと教科書も開いてある。歴史の先生のゆっくりとした優しい口調、眠くなるよね分かる分かるとか考えて眺めてたら、ふいにリョウちゃんがこっちを向いて目が合った。びっくりしたように目をまるくしたリョウちゃんに、あとで「何見てたんだよ」とか言われるかもと思った私は、とっさにニコッと笑って教科書の陰から手を振った。

リョウちゃんはすぐにそっぽを向いてしまったけれど、垂らした手の片方をほんの少しだけ動かして合図してくれたのが分かった。それを見て嬉しくなる。やっぱりリョウちゃんはリョウちゃんで、根本的な部分は優しいんだ。


家が近所で親が仲良しということから、弟を含めた私たちは4歳くらいの頃からいつも一緒に遊んでいた。毎日弟とリョウちゃんと手を繋いで、あっちこっちへとひっぱりまわしていたのは私だった気がする。

今でこそ考えられないが、昔の私は活発でよく笑う明るいタイプで、リョウちゃんは泣き虫でおとなしいタイプだった。

タンポポの花を渡されて、大きくなったら僕とけっこんしてねって言われたことを思い出す。

ついでに、その花をポケットにいれたままお母さんが洗濯機に入れてしまって泣いたことも思い出した。

優しいリョウちゃんは私に何度もタンポポを摘んできてくれたっけ。


そんな優しくておとなしいリョウちゃんはいつからか···小学校高学年頃から相手に言い返すようになり、中学校に上がると恐い見た目の明らかに不良っぽい人たちにケンカを売るようになっていった。

その頃から弟も塾に行くようになり、私たちが一緒に過ごすこともなくなった。


リョウちゃんが高校生にまで次々とケンカを売っているという話は有名で、皆リョウちゃんを遠巻きに見ていた。ついには地域全部をまとめあげたらしいと聞こえてきた日には私の知らないリョウちゃんになってしまったようで寂しかった。でも高校も同じと分かって、ケンカの合間に受験勉強もしてたのかと驚いた。自分で言うのもなんだが、わりと高いレベルの高校だったからだ。


高校生になってからは、朝よく会うようになった。また声をかけてくれるようになったし、今朝みたいに少し会話もできるようになった。去年の誕生日には何故かメガネをくれたけど···


あっ、そういえばそろそろリョウちゃんの誕生日だ。

思い出して眠気がとんだ私は、何かプレゼントしようかなと考える。

10歳くらいまではみんなでケーキを食べたりしていたが、今のリョウちゃんにプレゼントとなると、なにがいいかわからない。この前の私の誕生日にメガネをもらったことだし、なにかプレゼント用意しよう···

ピアス?は趣味があるだろうし、

本···って感じでもない。

うわあ、リョウちゃんの趣味がわからない。


本人にきいてみようかな···

き、聞けたら聞こう。機会があったら。

でもいらないって言われるかも···


まだあと一週間あるから、その間に決めよう。

そう考えた私は黒板の文字をノートに書きうつした。


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