茨城 港での食事
見晴らしの丘は少し寒く、あたり一面にはロウバイの花とアイスチューリップが咲いていた。
「寒いわねぇ、でもとっても綺麗……♪ 」
アタシの肩に寄りかかりながら、妃愛香が呟いた。
それを受け入れながら、遠くに見える海を眺めていた。
「麗奈、腹減ってる? 」
アタシが問いかけると、彼女は首を縦に振った。
「私、さっきお昼少なめにしたのよぉ。
麗奈がお魚食べたいっていうと思ってね。」
あたしの目を見て、微笑みながらそう言う彼女にあたしはあえて目を逸らした。
「そ、そこまで言ってねぇよ……。」
あたしは自分の顔が赤くなるのがはっきり分かった。
「そうと決まれば早速お魚食べに行きましょう♪ 」
「ま、まぁ……花は結構見たからな。」
すこし名残惜しいが、あたしは見晴らしの丘を後にした。
遊園地もあったが、妃愛香は今度でもいいと言ってそれを目にもせず、海浜公園を後にした。
「なんか、もったいなかったような……。」
車に乗り込み、エンジンをかけてから小さくつぶやいた。
すると妃愛香がアタシの手を握って、口を開く。
「一つのところにずっといたらそっちのほうがもったいないじゃない。
せっかくの旅行なのだから楽しみましょうっ。」
「ま、まぁそうだよな……。」
少し戸惑いながらもアタシは納得して、アクセルを踏んで海浜公園を後にした。
……
海が近づくにつれ、潮の香りが強くなっていった。
アタシの空腹は限界に近付いているらしく、ついに妃愛香に聞こえてしまうほど腹を鳴らしてしまう。
「…ふふっ」
それを聞いた妃愛香が小さく笑った。
「悪いかよ、そんなに腹減ってんのが」
信号待ちで彼女のことをじっと見つめると、妃愛香がアタシの目を見つめながら口を開いた。
「悪いなんて言ってないわよぉ、可愛くって」
「ば、ばかっ!! 」
照れ隠しにアタシは妃愛香の肩を押した。
押したタイミングで信号が青になったので追加でアクセルを強く踏み、彼女を驚かせた。
「まったく、照れ隠しが下手くそなのね~」
それはかえって彼女のことを煽る結果にはなってしまったが…。
「やっとついた・・・もう流石に腹ペコだ……。」
港に到着し、アタシたちは車から降りた。
空腹の体は無意識のうちに飯の香りを追い求めてしまっていて、妃愛香を置いてそそくさと市場に入っていった。
「私を置いて行くほど、お腹が空いているのねぇ。」
「当たり前だ、アタシは食わないと動けねぇんだよ」
「ふふふっ。」
アタシを見つめながら微笑んでいる妃愛香を横目に、アタシは市場に並んだ魚や料理を見ていた。
卸したての魚や、刺身になっている魚にくぎ付けになっていると、再び彼女が口を開いた。
「麗奈、悩んでいるのならこの伊勢海老の丸焼き、一緒に食べましょう?
これくらい大きければ、あなたもお腹が膨れるはずよぉ? 」
「わ、わかったから!
声がでけぇっつうの……。」
店員にまで聞こえるようにそう言う彼女に、アタシは顔が赤くなってしまった。
逃げるように注文し、席に着くと、アタシは妃愛香の頭を軽く小突いた。
「恥ずかしいっての、バカ。」
「んっ、恥ずかしがることないじゃない。
ご飯を食べるための場所なのよ? 」
「そりゃそうだけどさ……」
小言もほどほどに、机に置かれた伊勢海老の丸焼きを見つめる。
大ぶりな個体で、一つ食べるだけで腹が膨れてしまいそうな見た目だ。
「もう限界だ、アタシは食うぞ。
いただきます! 」
「私も、いただきます。」
エビを半分に割り、身をさらけ出す。
ほくほくと湯気が立ち上り、すぐに塩とエビの香りが鼻に抜けていった。
そのまま身を口に運ぶと、口の中ではエビの旨味、そして程よい塩加減が広がり、たまらずアタシは息を漏らしてしまう。
「う、うますぎ……。」
思わず感嘆の声を漏らしてしまうほどの旨味に、いつもの妃愛香のからかうような顔も気にならなくなっていた。
「ほんともう、着いてきてよかったわ……♪」
妃愛香の嬉しそうな呟きを、アタシは聞こえないふりをして食事を続けた。
心の中では同じことを思っていたが、それを口に出すにはまだ早いような気がして……。
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