茨城 花を見る
車を走らせていると、妃愛香が楽しげに口を開いた。
「麗奈も女の子なのねぇ♪ 」
「どういうことだよ? 」
「だってぇ、喋り方は男気があるけどぉ、お花が好きじゃない♪ 」
妃愛香にそう言われ、アタシは少し顔が赤くなってしまった。
自分を女らしいと意識したことがなかったアタシにとってその言葉はとても恥ずかしかった。
「照れてるのねぇ、可愛いわぁ♪ 」
「うるせぇっ、とっとと行くぞ! 」
アタシは照れ隠しにアクセルをやや強めに踏んだ。
・・・・・・
更に走らせて、ついに『ひたち海浜公園』と書かれた看板が見えてきた。
その看板を見た妃愛香がわくわくとした口調で喋り始めた。
「海浜公園についたわね、中に入るのがとっても楽しみだわぁっ」
「はいはい、アタシも楽しみだよ。」
目を輝かせて入り口を見つめる妃愛香の言葉を受け流しながら、駐車場に車を止めた。
車を降りると寒風がアタシを襲い、思わず身震いしてしまった。
「さすがに海の近くは寒いか......」
ジャケットを薄くしすぎたことに後悔しながら、アタシたちは入場のゲートに入った。
「いらっしゃいませ、大人二名様ですか? 」
ゲートに近づくと、男性の従業員が話しかけてきた。
「あぁ、大人二人。 この時期の名所とかあるかい? 」
アタシはチケットを買いながら、従業員に問いかけてみた。
すると彼は微笑みながら説明を始めた。
「この冬の季節ですと、ロウバイとアイスチューリップを見ることができます。
ぜひ確かめてみてください。」
「なるほどね、助かったよ。 ありがとっ」
楽しんで、と手を振る従業員に軽く会釈して、アタシたちはついにひたち海浜公園の中に入ることができた。
「寒いけれど、楽しみましょうね」
妃愛香が、アタシの手を握ってきた。
アタシはそれに驚き、初めは手を離そうとした。
すると妃愛香が、
「いいじゃない、これくらい。 スキンシップよ」
と見つめて来たので諦めてアタシは手を握り返すことにした。
「さてと......最初はみはらしの丘行ってみるか」
「ええ、麗奈についていくわぁ♪ 」
アタシたちは、みはらしの丘へ歩き始めた。
道中にもきれいな花が咲いていて、飽きさせない作りをしていると思った。
「ここから見晴らしの丘に行けるみたいだな。」
見晴らしの丘に行くための目印の看板をアタシは指さした。
するとその近くを自転車が走っていった。
「麗奈、二人乗り自転車の貸出しもしてるみたいよぉ? 」
妃愛香がそう言うと、握っていた手の力を少し強めてきた。
「しないぞ」
それだけいうと妃愛香は寂しそうな顔をしてうつむいた。
最初はアタシも無視していたが、あまりに長い時間その状態を続けいていたので、アタシはため息をついて、
「わかったよ! 」といった。
「ほんとにぃ? 嬉しいわぁ! 」
途端に顔を上げて目を輝かせる妃愛香。
アタシはまたため息をつきながら、自転車を貸し出している場所まで戻った。
「二人こぎ自転車、貸し出したいんだけど」
貸出し場にいた従業員に、声をかける。
すると従業員は、
「最後の一台だったんですよ、よかったですね! 」
なんて言ってくるからアタシは額に手を置いてしまった。
「いくらだい? 」
アタシが財布を出してレンタル料を払おうとすると、妃愛香がそれを制止した。
「私がやりたいって言ったから、ここは私が払うわぁ」
「ん......それは助かるけど」
妃愛香が金を払い、アタシたちは注意事項を聞いてサイクリングコースを走り始めた。
「足並み揃えないと進めないんだからな、アタシは妃愛香のペースに合わせるよ」
妃愛香が前、アタシが後ろに座り、ペダルを漕ぐ。
マイペースな彼女はゆっくりと漕ぎながら景色を楽しんでいた。
「埼玉とは違うわねぇ、お花がなくても空気が綺麗だわぁ」
「ったく、ここでこんなはしゃいでたらみはらしの丘に行ったときどうなるんだか......」
ペダルを漕ぎながら、アタシは気づかれないように微笑んだ。
・・・・・・
「ここが、みはらしの丘......。」
自転車を駐輪場に止めて、みはらしの丘を見る。
花は咲いていないが、真っ白な霜よけシートに覆われたみはらしの丘も壮観だった。
「冬だから花は咲いてないわね」
少し残念そうにしながら、妃愛香がつぶやいた。
アタシは彼女の肩に手を置いた。
「まぁそんな日もあるだろ。 ちょっと歩いてみようぜ」
アタシは妃愛香の手を取って、みはらしの丘を歩きはじめた
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