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リネットの恋  作者: koma
3/7

3

 ***


「それで? 話って?」 

「……あぁうん。えーっと、えっと……ねえ」

「うん、なに?」


 数十分後。

 リネットとエーリヒは、カフェから少し歩いた場所にある公園のベンチに腰掛けていた。


 結果はわかりきっているとはいえ、やっぱり他人のいる場所での告白は恥ずかしかった。


 それでリネットは、エーリヒをこの大きな公園へ誘い出したのだ。


 そこは子供の頃から馴染みのある、思い出深い場所でもあったから、この先、ここを通るたびに苦い思い出から甦ると思えばやっぱり別の場所で、なんて迷いもしたけれど、そんなの何処だって同じだと気づいて、観念した。


 それに、リネットはもうこの気持ちを隠し続けることが出来なかった。

 だから言う。

 今ここで。


 リネットは決意し、すうっと息を大きく吸い込んだ。そうして、隣のエーリヒを向く。心臓は今にも爆発しそうだった。


「あのね、私ね」

「うん」

「あ……あの」

「?」

「あなたの! ことが!」

「うん」


 がんばれ、と自分で自分を応援する。

 巻き込まれるエーリヒは迷惑に違いないだろうけれど、この時間だけだからと。震える唇を動かした。一息に言ってしまう。


「ずっと前から好きだったの!」


 勢いがつき過ぎて、若干大声になっていたことにも気づけなかった。

 ただ、言えた、という達成感と、やっぱり言うべきじゃなかったかしらという後悔が同時に押し寄せていた。心臓は言わずもがな、早鐘を打ち続けている。でも、言ってしまったものは仕方がない。


 リネットはエーリヒの顔を見つめながら、言葉を続けた。

 目を丸くしたままかたまったエーリヒは、何を思っているのだろう。怖くて聞けやしない。


「あの勘違いしないでね。好きって、友達としてじゃなくて、男の子としてって意味よ? ほら、あなたって知らないお婆さんの荷物持ってあげたりとか、店員さんにもやさしかったりとか、勉強すごく頑張ってたりとか、いいところいっぱいあるじゃない? それで、私いつの間にかすごく好きになってて。一緒にいるとドキドキして大変なの。今日だってそうだったのよ、ずっと。でも安心して、あなたは家を継がなくちゃいけないし、私じゃ恋人にはなれないってことは分かってるから。ただね、どうしても言っておきたかったの。私、あなたが好きなんだって」


 言えた。ちゃんと言えた。

 気が緩むと、今にも涙が出てきそうだったけれど、リネットは後少しだと自分に言い聞かせて、エーリヒの黒い双眸を見やった。


「いきなり勝手なことばかり言ってごめんなさい。でも、ちゃんと諦めるから……だから、これからも友達でいてくれる?」


 変わらずに。


 祈りを込めて言ったリネットに、エーリヒは綺麗な眉をひそめた。


「リネット」


 そうして膝上に置いていた手を握られる。


「そんなの無理だよ」

「……」


 あぁ。

 邪な気持ちを持っているから、友達でもいられないということだろうか。

 それはそうだ。

 勝手に自分の気持ちを言って、押しつけて。

 彼の心の広さに甘えすぎてしまった、一人で抱え続けるべきだったとリネットが己を省みた。

 その、瞬間。


 目の前が一瞬陰り。

 リネットは、唇にやさしい感触を受けていた。

 

「……?」


 思わず真顔になる。


 手の甲や、頬や、額に。リネットは今までも同じような感触を受けたことはあった。

 でも、唇は初めてだった。


「………………??? ……?」


 そっと顔を離したエーリヒは、少し怒ったように、けれど堪えきれないとばかりに嬉しそうに、笑っていた。そうして、そのままこつりと額どうしを合わされる。

 石鹸のいい匂いがした。


「友達なんて続けられるわけないだろ。だって僕もおんなじ気持ちなんだから」


「……」


 おんなじ、きもち?


 リネットは困惑したまま、エーリヒを見つめ続けた。

 エーリヒはにこにこと笑いながら、リネットの顔にかかっていた赤い髪をやさしい手つきではらう。


 近い。距離が近い。


 心臓が持たない。飛び出してきそうだ。


「エ、エーリヒ?」

「諦めなくていいよ。僕もリネットが大好きだから」


 ゆっくりと。次は額にキスをされて、リネットの脳は許容量を超えた。


「ええええエーリヒ!?」

「嬉しいなぁ。両思いだったんだ」

「両思い!?」

「そんなに驚かなくても……」


 微笑んだエーリヒは、リネットの手を握り続けていた。そうして少し、唇を噛む。


「でも悔しいな。告白は僕からしたかった。先を越されちゃった」

「や、でもあの」

「? あぁ、身分がどうのだっけ? そんなのどうにでもなるよ、僕の父さんたちだっておんなじようなものだし」

「そんなわけな」


「そんなわけないでしょう……!!!!」


 次こそ、本当に心臓が口から飛び出るかと思った。


 エーリヒを溺愛し、目に入れても痛くないと豪語していたくらいだ。絶対にどこか、そう遠くはない場所で待機しているのだろうとは思っていたけれど──。

 

 思いながらリネットは、ベンチのそばに現れた、葉っぱを頭や肩につけたその長身の男を見上げた。案の定、こめかみには青筋を立てている──


「やってくれましたね……小娘」


 ──エーリヒの従者、ガドフリー氏を。  



 

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