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くだらない私の日常 新人なろう作家の日常妄想系エッセイ

大嫌いだけど大好きな父へ


 ごきげんよう、ひだまりのねこですにゃあ。


 今日は父の日ですね。


 せっかくですから、年に一度くらい父のことを書いてみましょうか。




 最初の父の記憶は、いつも何かを描いている姿。


 父は東京の美大出身です。入学試験の際、十年に一度の天才だと騒がれたと父の友人や母は言うのですが、本当かどうかはわかりません。めちゃくちゃ絵が上手いのは確かですが、私には一ミリも受け継がれていないようなので。


 

 私にとっては、父親というものはいつも家に居る存在でした。


 書斎というか、作業場にこもって一日中何かをしている変な人。でもたまに一緒に虫捕りに行ってくれたり、動物園や博物館に連れて行ってくれる大好きな人。


 見るからに優男で、今でも大学生ですか? と言われるぐらい外見が若い。もしかしたら吸血鬼かもしれないと疑ったことがあります。だって肌もシミ一つ無く真っ白なんですよ? 引っ張るとびよーんと皮が伸びるもち肌でもあります。


 そして育ちが良いせいか、底抜けに人が良くて優しい。そんな父ですから、近所の人や学校の先生、同級生からはとても人気がありました。私もそんな父が誇らしく嬉しかったものです。


 

 でも、小学校に入ってからのことです。


 学校の発表で、父親の職業を書かなければならず、私は困ってしまいました。父の職業がわからなかったのです。


 当時の父は、イラスト、写真、デザイン、さらにはよくわからない内職をたくさんしていたのです。


 父にたずねたら、


「フリーターとでも言えばいいよ」


 と言うのですが、子ども心にフリーターというのが恥ずかしくて、結局会社員と嘘を書いてしまいました。


 そのころには自分自身が普通ではないことを理解していたので、変なところでこれ以上注目されたくなかったのです。


 もちろん先生にはすぐバレてしまいましたし、学校に頼まれて専属のカメラマンとして撮影に現れた父のせいで、同級生たちにもすぐにバレましたけれど。


 学校に来ることをなんで事前に教えてくれなかったのかと怒っても、


「ビックリさせようと思ってね」


 キャーキャー言われて上機嫌な父を見たら、それ以上何も言えず。


 それ以降、私の父はカメラマンということになったんですが、写真は趣味と副業だとは言えず。



 地味に困ったのが、文房具や画材関係。


 学校指定の定規やコンパスがあるのに、製図用のプロ仕様を渡される。


 絵具や筆も、本格的なものを渡される。


 目立つことこの上ない。


「学校指定のがあるんだよ」 


 と言っても、


「先生は家にあるものでも大丈夫って言ってたよ」


 私はみんなと同じものが良いのに、父はわかってくれなかった。



 定休日が無いので、お休みの日に遊びに行ってくれることもないし、他のお父さんみたいに、ボーナスや役職もない。お酒もたばこも一切やらず、夏休みや年末年始もいつも仕事をしている父。

 

 周りからは羨ましいと言われたけれど、普通に憧れていた当時の私にとって、父という存在は、決して好ましくはなかった。 



 けれど私にとって幸いだったのは、父はとにかく怒らない人だったこと。


 私は、生まれつき音に極度に敏感な体質のため、怒鳴られると頭痛と吐き気、震えで動けなくなってしまうのです。


 父は決して声を荒らげることなく、ひたすら言葉で理解させようとする人でした。話が長すぎるのが嫌で、なるべくそうならないよう必死になるほどに。


 

 良い人が服を着て歩いているような父ですが、家族にとっては困った父でもありました。


 お金にならない仕事をボランティアで引き受けたりして、せっかくの家族の予定が何度も中止になったりすることは日常茶飯事でしたし、実際、母はいつも家計のやりくりに苦労していました。



 父の実家は某大企業の創業一族らしく、伯父や伯母は皆、祖父のコネで超一流企業で働いています。


 ですが、父はそんな生き方が嫌で、家を飛び出し、自分の力だけで生きて行こうと決めたのだと母から聞きました。そんな母もまた、似たような境遇でしたから、きっと互いに惹かれるものがあったのだと思います。


 

 ある時、父は親友の頼みで保証人になりました。家族の反対を押し切って。


 

 結果的に父は莫大な借金を背負うことになり、家族はバラバラになりました。


 実家はもう想い出の中にしかありません。


 

 結局、最後まで父は実家に頼ることはしませんでした。



 私にはそれが良いことなのか悪いことなのかわかりません。


 それが父という人間の生き方なのでしょうから。



 父は優しい人です。身体が弱い姉が出産したとき、心臓が何度も停まったそうですが、付き添った母によれば、父が倒れた瞬間心臓が動き出したらしいです。


 父娘が同じ病院に入院することになったのですが、お医者様も信じられないと驚いていました。


 

 滅多に会うことも無くなった父ですが、今でもはっきり覚えています。


 あの作業部屋の絵の具や薬品の匂いと、いつも流していたラジオの音。


 カッコイイ父の背中。



 私は父が寝ている姿を見たことがありません。


 夜も朝も。私たちを育てるために一生懸命働いていました。


 母が言っていました。


「あの人は、子どもたちの寝顔を見るのが一番の幸せなのよ」



 大嫌いだけど、大好きな父へ。


 言いたいことはたくさんあるけれど、母だけはちゃんと守ってあげてね。


 私も精一杯生きているから。死にたくなっても頑張って生きるから。だから安心して長生きしてね。



 手先は器用なのに、生き方は不器用な貴方が大嫌いで大好きです。 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
[一言] びたにゃんも、頑張ってにゃあ~ でも、なるべく無理はしないように!
[良い点] ∀・)複雑な家庭環境を描かれているのかなぁと思いきや複雑な心模様を書いたおはなしでしたね。でもこの等身大のこころ描写、僕はイイと思います。 [気になる点] ∀・)「夫の扶養から抜けだしたい…
[良い点] 日々の感謝はとても大事なことです。 私も父が嫌いでしたが、未だこの歳になっても父の背中には追い付けずにいます。
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