[短編]サーファーになっても全然モテないので浜辺に来たリア充を爆破
高校生になって、オレはサーフィンを始めた。
サーファーになれば、女にモテる。
それはオレの信念であり、希望だった。
小さい頃から見ていたサーファーたちは、みんなリア充でキラキラしていた。
日焼けして、引き締まった体。
髪の長い美人の彼女。
波に乗れば、ヒーローだった。
ずっと溜めていたお年玉で、サーフボードとウェットスーツを買った。
そして、髪を染めてサーファーカットにした。
毎日、波に乗るために海に通った。
先輩たちとも仲良くなった。
みんな、40オーバーだった。
美人な女性は、先輩たちの奥さん。
時々、一緒に波に乗ってる。
そう。
浜辺にくる女性はみんな既婚者だ。
「えー、翔斗くん、彼女いないー?」
「いないんです。誰か紹介してください」
「うーん。でもアタシの知り合い、紹介したら、条例違反になるから、無理ー」
年上でもオレは構わないけれど、世の中がそれを許さない!!
オレは砂浜に拳を叩きつけた。
冬でもオレは毎日波に乗る。
そう、毎日だ。
「ねえ、毎日、真面目にサーファーやってたら、出会いも何もないでしょう?」
真っ当な指摘を受けたのは、クリスマスまで2週間になった日。
帰宅して、生乾きのウェットスーツを部屋にぶら下げながら、オレはちょっと泣いた。
それでもオレにはこれしかないんだと、翌日も波乗りに行った。
すると、女性陣がそわそわと落ち着きがない。
「内緒でこっそり…」
「相性が合えば…」
「会わせてみて…」
オレはインサイドで波を待ちながら考えた。
クリスマス前で、みんなオレが彼女欲しい男子高校生だと知っている。
「まさか、オレの嫁候補が…?!」
波が来た。パドリングで加速する。波に同調して、テイクオフ!
来た!オレにも波が来た!
波に乗りながら、みんなへの感謝の気持ちでいっぱいになった。
浜辺に戻ると、人垣が出来ていた。
あそこにオレの嫁候補が…!
近づくとみんなニヤニヤとした顔をしている。
オレは無表情を装いながら、そこに近付いていく。
「ほら〜、やっぱりお見合い成功よ」
「よかったわね〜、お嫁さんよ」
その視線と会話の中心にいたのは。
2匹のトイプードル。
オレの嫁候補ではなかった。
適当に相槌を打ちながら、サーフボードと足を結ぶリーシュ・コードをトイプードルの横に置いて立ち去った。
そして、離れた所で爆破ボタンを押した。
「リア充、滅殺…!」
冬のホリゾンブルーの空に、砂にまみれた2匹のトイプードルが、高く舞い上がるのを見て、オレは走り去った。