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自信をなくすなと元気付けてくれた人が私の自信を潰しにきているなんて。
「無理...」
Sランクには言われたくない言葉だった。私は助けを求めんと受付人の方を見るが目を思いっきり逸らされた。
「アーシェ、大丈夫だから。安心して。君は負けない」
その確信は何を証拠にしてきているのか知りたい。魔法も剣も扱えない私がSランクの冒険者に勝てるわけがない。だからと言って試験を止めるわけにもいかない。いつかに引き伸ばしたいと言ってもきっと結果は同じなのだ。力の差がはっきりしている。
受付人は胸ポケットから笛を取り出す。
「この笛を私が鳴らしたら試験開始です」
私は大きく深呼吸した。周りには試験が終わった冒険者たちが休憩がてらに私たちを見ている。
「Sランクのディル様とルーキーの試験だそうだ。瞬殺だろうな」
...グサっ。
「勝てるわけねーだろ、天と地ほど差があるぜ」
「うっわ〜、絶対木っ端微塵にされんな」
......グサっ、グサっ。
自分でも分かっていることを周りの人から言われると結構痛い。
「アーシェ。落ち着いて。魔法は想像すればいいだけだから。ちょっとしたアドバイスだけど、自分の体を強化する魔法を想像して。やりやすくなるはずだよ」
そんな魔法があるのか、と思いならがら脳内で想像する。マナが全身を包み込み、体が明らかに軽くなるのを感じた。
「出来た...!」
「ね、簡単でしょ?」
「うん!」
これは役に立ちそうだと喜んでいると、ふと休憩している冒険者たちがまた目に入った。皆、なぜか驚いている。口をパクパクさせている者もいた。
「む、むむ無詠唱...あいつなんなんだっ?!」
「普通の身体強化...だよな...?あんな濃いマナ、初めて見た」
ディルもそれが聞こえたのかクスクス笑っている。
「準備はいいですか?」
受付人が私たちの注目を集める。
「始めますよ」
ピーー!と、高い笛の声が鳴る。
誰も、動いていはいない。
動いてはいけないような気がした。相手の体がどういう動きを出すのかを待っている気がする。自分でも自分が何をしているのかわからない。それはそれは少し怖かった。まるで自分の体が自分のではないみたいな。
「....どうしたの?」
「....え?ディルが動くのを待っているだけ...だけど」
そう答えた途端、ディルは手を口に当てていた。分かる...彼は今、爆笑していると。堪えているつもりだろうが、分かる。
「違うよ、これは試験だからアーシェが先に攻撃をするっていう決まりなんだ」
「そうなの?」
受付人の方を向くと彼女は私に向かって頷いた。
「....ごめんなさい」
ペコリとさっきしてしまった迷惑に謝る。
「大丈夫だよ。ほら、攻撃してきて」
ディルは腰を低くして構えた。
私は手を前に掲げる。想像するのは前に作った木の檻。名前は...
「『ウッドケージ』」
ボコっと石畳の試験場の床から木の根が生え、すぐにディルを捕らえた。
「すごい、頑丈だね。だけど」
木の棒の間からディルが指を突き出し、それに光が集まる。
「『ライトレーザー』」
白い閃光が一直線にこちらに向かってくる。それをちゃんと目で捉え、避けられた。
「「今のを避けた?!」」
休憩している冒険者たちが一斉驚き立ち上がる。そのあと、大きな爆発音がした。何事かとその音の方を向けば、壁がえぐられていた。すぐにディルの魔法の仕業だと分かると皆背筋に寒気が走った。
ディルはそれを次に三つ同時に作り、私に向けて放たれる。そのうちの二つは避けたが最後の一つが避けられない。そのところは青白い結界が守ってくれると思い、少し安心しているとそれを突き破ってきた。
「え...?」
レーザーは私に当たる寸前。壁みたいに爆発を覚悟した。
「っ...!」
ペシっと、デコピンに似た痛みがレーザーが当たったところに走る。
「「え?」」
その場の全員が驚愕した。
「ほら、アーシェも攻撃してこないといい点数取れないよ?」
気にしている暇もなく、私は地面を真横に蹴る。そして木の檻の周りを走り回っていた。
「『アイスチェーン』」
氷の鎖で檻の中にいるディルをさらに拘束しようと試みたが、違和感を感じた。
ペシっと背中に先程の痛みが生まれる。すぐに振り返ると、檻にいるはずのディルが後ろで浮かびかがらレーザーを発していた。
「『フライ』」
私も風魔法ですぐに彼の高さに追いつく。我ながら魔法が使いこなさている気がして嬉しかった。だが、まだ足りない。せめて攻撃が一つでも彼に当たれば...。
考えて、想像して。
左手には水の竜巻。右手には火の竜巻。それを合わせて...。
「はあぁ!」
大きな青と赤が渦巻く竜巻がディルを飲み込む。
「ディル?!」
自分がしてしまったことに気づき、慌てふためく。あんな竜巻で生き残れる人なんているわけがない。
もしかして...自分が。
そう考えると泣きそうになる。
止まない竜巻に人影が現れることを期待するが、そんな運よく生き残れるわけがない。魔法の止め方もわからない私は竜巻の中に飛び込もうとした。その時、人が竜巻の中から出てくる。無傷で。
「ディル...」
安心したと同時に、竜巻でも傷一つ追わせられないことが悔しかった。
「すごい魔法だったよ。少し頬がかすれちゃった。すぐに治療魔法をかけたけどね」
「...」
「合格だよ、受付人。アーシェを僕と同じSランクにしてくれないか?」
「...!はい!直ちに!」