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「美味しかった?」
「はい!とても!」
もう満腹で満足だ。こんな食事人生初めてかもしれない。
「では、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。ところでここから一番近い街ってどこか知ってますか?」
「それなら僕が連れてってあげるよ。僕の名前はディル、君は?」
「アーシェ、です」
「アーシェ。敬語じゃなくてもいいんだよ?」
「...わかったわ」
簡潔すぎる自己紹介を終えるとディルは私の手を取り、街の方向へと向かう。
「これからいくメーアの街は焼き鳥で有名なんだ。外がパリパリで中が柔らかくて美味しいよ」
街へいく間に、ディルは街のことをたくさん教えてくれた。特に焼肉に関してはざっと五分も話していた気がする。そんな話を興味津々に聞いていると街が見えてきた。
街に入ると、すぐに例の焼き鳥屋に連れて行かれる。店の前には行列ができていて、どれくらい有名かが分かった。私たちは最後尾に並ぶ。ここからでも美味しそうな焼き鳥の匂いが風に乗ってきて、お腹が食べたいと叫ぶ。先ほど食べたばかりのはずなのだが、まるで何も食べていないかの気分だ。
永遠とまではいかないが、長い間列に並んでいるとやっと私たちの番になった。そこで自分にお金がないという現実に引き戻される。
「私やっぱり食べない」
そう言って列を抜けようとするとディルに止められる。
「僕の奢り」
自分の財布を取り出し、そこから銅貨2枚を焼き鳥を焼いているおじさんに渡す。
「まいど〜」
おじさんはそれを取り、焼き鳥を二本ディルに渡した。そのうち一本を私に渡したが、申し訳なくて押し返す。
「もう食事を頂いたから...さすがにこれ以上は」
我慢だ、自分。どれくらい食べたくても彼にはもう迷惑はかけられない。だが、目の前の鶏肉に誘惑に芯が折れそうなのも確かだった。
「本当に、食べたくないの?」
「ぇ?」
ディルは意地悪そうに焼き鳥を私の顔の近くまで近づける。
無理だ、これ以上は。
「も、もらうわ。このお金は返すわよ!」
パシッと彼の手から焼き鳥を取り、ハムっと一口食べる。いい調子にパリパリな鶏肉の皮に中の肉汁と外にかかっているソースのハーモニーが私の口の中で舞い踊る。
「おいしい〜」
頬が落ちそうなほど美味しかった。これは依存しそうなほど美味しい。天下一品と言っても過言ではない。
隣でも同じくディルが美味しそうな顔をしていた。二人で近くのベンチに座ると、残りの焼き鳥を食べ尽くす。
「あ、ついてるよ」
ディルの手が私の唇の隣に当たり、そこについているソースを拭く。
「...ありがとう」
彼は私の口周りについたソースを舐めた。
「やっぱ美味しい。ソースすらもったいないね」
真っ赤な私を無視して焼き鳥の感想を述べ始める。放心状態な私には一言も頭に入らなかった。
「そうだ、お金はどうやって返すつもりなの」
現実に引き戻される。私は手を顎に当てて真剣に考える。
実は少し冒険者というものに憧れていたのだ。屋敷にいた頃、偉大な冒険者の人生が書いてある小説を読むのが大好きだった。それはもう何十回と読み直していた。そして今自分が魔法を扱えると分かればやらない選択肢はない。
「冒険者になるわ」
そうディルに伝えると、彼は笑顔を返してきた。
「奇遇だね。僕も冒険者なんだ」