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『エンドレス』というパーティーを成立してから二ヶ月が経った。私たちはまだ王都で過ごしている。冒険者ギルドの人たちには顔を覚えられ、冒険者たちも時々私たちに挨拶をしてくれる。国王から何らかも報告があるわけでもなく、ごくごく普通な冒険者ライフを送っていた。
「そういえばレイって魔王でしょ?魔物って仲間じゃないの?」
ふと、そんな疑問が口から溢れた。冒険者ギルドの依頼のデス・スネークの牙を10本持ってきていたところだった。
「魔物は魔物でも、魔族ではないだろう?我は魔族の王だ」
「じゃあさ、仕事とかないの?魔王さん」
魔王でも王様なのだから執務などがあると思うのだが。
「う...」
レイはあからさまに目をそらした。
「わ、我の忠実なる配下に任せておる...」
私の返答を待つ前に彼は受付へと牙を渡しに行った。逃げた、と心の中でため息を着きながら彼に続く。
「はい、こちら金貨3枚になります!いやー、『エンドレス』は大変活躍していますね。こちらとしてもありがたいです!まあ...」
受付の人はチラリ、と依頼ボードの方を見る。そこには数えるほどの依頼しか載ってなかった。
「逆に魔物が怖がって近づかなくなったのが、いいのか悪いのか」
最近、王都の周りの魔物の数が少ないと思ってはいた。だが、その原因が私たちにあるとは思っていなかった。
「少し休んでもいいんですよ?」
「そう、ですね」
これ以上他の冒険者の仕事を取ってはいけない。それに、確かに私たちは毎日無休で依頼を受けていたのだ。少しぐらい休憩してもいいだろう。それにもうお金には困っていないわけだし。
私はチラリとディルを見た。彼はどこか遠くを見てぼーっとしている。
「みんな、休む?」
「うむ、休息は必要だ」
「......」
ディルからの返事がない。彼はまだ何か考え中みたいだ。近頃ずっとそうだ。気付けば彼は何かを考えている。何か困っていることがあるなら相談してほしい。前回なんて魔物と戦いながら考えていたんだ。それにイラついた魔物が全体でディルに襲いかかると、その次の瞬間には血飛沫しか残っておらず、魔物は跡形もなく粉砕していた。あの後ギルドに帰って謝った覚えがある。
「ディル?」
呼んでも反応しない彼の服を掴み、思いっきり下に引っ張る。
「っ、アーシェ...」
彼は私をみると、ほっとしたように息をついた。
「ちょっと休憩しようと思ってさ。これから昼ご飯でも食べに行かない?」
「あ、ああ。いいね、それは」
普通の彼だ。笑顔さえ普段と変わらない。
「...あのさ」
「うん?」
「何か困ってることがあれば相談に乗るよ?」
ギュッとディルの服を掴む手に力が籠もった。彼は目を細める。
「それは、大丈夫。それより手を放してくれないと僕の理性が消滅しちゃいそう」
バッと手を放す。すると、ふわりと何かが腰に抱きついてきた。
「何だディル。お前アーシェと一緒にいたくないのか。なら我がもらおう」
レイだった。彼は私の腰にしがみついていた。もちもちの頬をくっつけてきている。それが、なんとも言えないほど可愛かった。周りの冒険者もそう思っているのだろう、場の空気が和む。
「レイは好きあらば僕のアーシェにくっつくよね〜。害虫みたいに」
ディルの見下すような視線がレイに刺さるが、それを彼は気にもしない。
「先手必勝だ。お前も頑張れ」
「子供の姿をしているからってなんでもしていいわけでもないと思うけど?」
「子供の権利だ。お前も子供になればいい」
ディルは苛立ちを見せた。
「このままじゃ、アーシェを取られかねない...どうやって繋げておけば...」
それはアーシェの耳には止まらなかったが、レイの耳は全てを聞いてきた。そしてニヤリ、とまさしく魔王の不適な笑みを浮かべる。そしてディルがそれに気付くと、周りの空気が氷になったかのように固まった。




