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戦ったことなんてないのに急にゴブリンと戦えなんて無茶だ。どうしようかと戸惑っていると、一定範囲内に入ったゴブリンはあの青白い結界に跳ね返された。
「あ」
「ギ!?」
ゴブリンは何事かと目を見開いた。
私は助かったことに心を安堵させる。ゴブリンが入ってこれないことを知り、警戒心を解いた。だが、ゴブリンはいつまでたってもそこを離れない。私をここから出さない気らしい。私が何も荷物を持っていないことから餓死させようとしているのか。思ったより賢い。
そうしたら私だってここで餓死するのを待つわけにはいかない。せっかく手に入れた自由だ。ここで死んだら自由を手に入れた意味がなくなるじゃないか。
そこまで決意したのは良かった。どう状況を解決すればいいかはまだ分からない。少しの間青白い結界を見つめて考えていると、思い当たることを見つけた。そもそも、この青白い結界があるということは私にマナが少なからずあるということだ。
自分なら、魔法が使えるのではないか。
私の知識の全ては読書から来ているので全て本の中の情報になってしまうが、頭の中で何を出したいか細かく想像すれば魔法が発動できるらしい。
好奇心も芽生えてきたところでゴブリン相手に試してみる。できれば殺したくない。私が十分離れられるまで拘束できるものにしたい。それに追加してゴブリンを痛めないのもいいかな。
脳内で木の檻を想像する。マナが手に集まるのを感じ、ゴブリンの方を見ると、地面から木の根が生え始め、ゴブリンを囲う。
脱出成功、と思いながらゴブリンに手を振って森の中を引き続き歩き回った。
先に見えるのは森であり、人里は見えない。どれほど歩いたか分からないが、幸い疲れは一切感じていなかった。
夜が明け、太陽が地面に向かっておはようの挨拶をしてくる。私はまだ森から出られていない。
「どうしよう...」
水は水魔法でどうにかなったけれども空腹はどうにもならない。
絶望的な気持ちで歩き回っていると、遠くから剣を交える音が聞こえた。そこに全速力で向かっていく。人がいる、人が。そこについた頃には、巨大な魔物の死骸とその上に立っている男性を見つけた。初めての生物の死骸に吐きそうになるものの、どうにかして堪える。その死骸の上に立っているのは返り血を浴びた、私と同じ17歳ぐらいの男性だった。
「あの!」
勇気を振り絞って声を発する。その男性は振り返ると、驚いたかのように目を見開いた。
「君...!もしかして」
一瞬にして私の目の前に現れると、頭のてっぺんから足の先までまじまじと見られる。
「あの...」
男性は、闇のような黒い髪に、光のような明るい瞳を持っていた。骨格、鼻がすべて左右対称であり、どこをとっても完璧そのものだった。
「やっぱり!」
彼は急に嬉しそうに笑うので、私をさらに混乱させる。
「あの」
もう何度、これを口にしたのか。
「何か、食糧をもらえませんか?」
彼は驚く。
「食べてないの?」
「はい...結構お腹を空かせていて」
「...動物とか周りにわんさかいた気がするけど」
「殺すのに...抵抗があって」
彼は柔らかく微笑んで頭を撫でてきた。
「優しいんだね。でも、その優しさで自滅するのもよくないから必要最低限は狩らないと」
「そう...ですよね」
だがどうしても罪悪感が殺す前から出てきてしまうのだ。正直どうすることもできなさそう。
「まあ、そんなことはゆっくりでいい。ほら、食べて」
そういうと彼は空中の何もないところから大きな鳥のステーキ、新鮮な野菜のサラダとコーンスープを取り出した。
そんな簡単に了承してくれるとは思わなかったが、今は緊急事態なためそんなことを気にせず食事にありつく。そんな私を男性は笑顔を崩さずにずっと見ていた。