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「もう貴様に容赦なんて必要ない!死ねっ!『ブレイズトルネード』!」
上位魔法を私に向けて打ってきたのは本当に自分の父親なのか。赤く熱い竜巻がこちらに迫ってくるのを見つめることしかできなかった。
ーー裏切られた
その実感が今でも消えない。いや、裏切られたわけではない。そもそも最初から私に味方する人なんてこの屋敷にいなかった。ずっと、一人だった。
いっそのことこのまま終わりたいとまで思ってしまう。だが、本能がそれを止めていた。まるで自分に生き続けろと伝えてるよう。ここで終わらせるか終わらせないかを考えていると赤い竜巻は結界に弾かれ消える。
「「え?」」
その場にいる全員が驚いた。上位魔法とはこの国の宮廷魔術師が数人集まって放つものであり、簡単に防げるものではない。我々アーネスト公爵家は昔からマナをたくさん体に宿しており、そのおかげでこのように上位魔法を一人で打てるのだ。だが、私はマナがない公爵令嬢として生まれた。そんな私に上位魔法を防ぐことなんてできない。
「貴様、雇った魔術師を出せ!」
お父様も何かわかったのか、声を張り上げる。
「誰も雇ってないわ...」
「そんなわけあるか!貴様が魔法を使うなんてありえないんだ!」
「そう、言われても...」
お父様は魔術師を出せ、の一点張りでそこから変わらない。私もそれに「知らない」と答えても聞く耳を持ってくれない。
ここから、離れたい。こんな私のことを信じてくれないどころか”人”として見てくれない人たちから離れたい。
そう強く願うと、地面に黄色い魔法陣が形成され、私を囲うように白い壁が地面から上に生まれた。一瞬の出来事で、気づいたときには周りに誰もいなかった。木、木、木。ここが森だということはすぐにわかった。だが、自分の頭の中の混乱はまだ治らない。
「どうして、私だってさっきまで屋敷の門の前で...こんなところには...夢?夢なの?」
夢、だなんて。そう思っている時点で夢じゃないとわかっているのに。これは紛れもない現実だと。
「に、げた」
体の力が完全に抜け、草の上に崩れ落ちる。自分の口角が上がっていることに気づいた。私は、笑っていた。最後に笑ったのなんていつだったか。笑顔とともに涙も流れてきて顔がしわくちゃになる。
「あの家族から逃れた。じ、ゆうだ!」
笑いと涙が止まらない。嬉しい。嬉しい。嬉しい。終わらない嬉しさが心の中を埋める。それから嬉しさを長い時間堪能した後、ふと現実に連れ戻される。
「これから、どうしよう」
逃れたことはいいことだ。問題は、無一文の自分がこれからどう生きていくか。それよりも先にこの森から出る方法を探さなければいけない。まだまだ前途多難な未来に心配になる。
もう誰もいないことはわかっているのに、誰か道を案内してくれる人はいないのかと、周りを歩き回る。
「グケケケ!!」
木の影から現れたのは、人間とはかけ離れた生物。緑色の体に長い耳、そして手の中には棍棒がある。
「ひっ!」
初めて会うそれに、小さく声をあげた。だが、このような生物を本で読んだことがある。全く同じ外見で、名前はゴブリンだった。弱いと書いてあったが、それは魔法が使える人。マナがない人用の強さ設定なんてない。警戒しながら、ゴブリンと見つめ合う。
「ギィ!」
素早い速度でこちらへ棍棒を振り回しながら突進してきた。
「ちょっ...」