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借金のショックからもどうにかして立ち直り、落ち込んでいる時間があったら早くお金を稼ごう...というわけでギルドで依頼を探している。隣ではディルが一緒に探してくれていた。
「んー...ここの依頼やっぱり少ないわね」
「しょうがないよ、街が小さいんだから。王都とかにいけばいい依頼があると思うよ。Sランクともなると依頼を自ら探すより指名されて依頼をこなす方が多くなるけど」
指名依頼かぁ。さすがSランクというところだ、それは。いまだに自分がディルと同じSランクだと信じきれない。今と昔とでは生活が違いすぎる。
「...お父様とお母様は、亡くなっちゃったんだよね」
「そうだね、そう言われているよ」
「妹も。あぁ...なんだか実感が未だにわかないな」
家族が亡くなってしまった。悲しむべきだと思う。だけど正直、悲しめない。嬉しいわけでもない。何も感じないんだ。まるで他人事のようで。そう思える自分が時々怖い。
「そういえばディルさ、あの後お父様と何したの?」
ディルは依頼の紙に伸ばそうとする手を止めた。
「あの後、ね」
「べ、別に疑ってるわけでは...ただその次の日にみんな亡くなったし。それでその前日にディルがあのお父様を連れてきて私に謝らせようとしたから」
「疑ってるんだね」
「.......そう、かも」
ディルは私のことをいろんな意味で助けてくれた。疑うつもりはない。だが、どうしても何か関係があるのではないかと思ってしまう。ただの偶然ということもあり得るのだけれど。
「僕は何もしてないよ。あの後は少し説教してから屋敷に送り返したから」
「説教って...」
「娘に対する態度を直させるようにね。僕もびっくりしたよ、次の日には死んだんだから。疑われるのも無理ないね」
彼の表情から嘘をついているようには見えない。
「うん、疑ってごめんね」
謝ると、気のせいかディルの口角が少し上がっていた気がする。
「大丈夫だよ、それより依頼探さないの?」
「いいのがないから街を出ようかなって」
「そっか。じゃあその前に焼き鳥でも」
「焼き鳥本当に好きだね、ディルは」
「もちろん」
私たちはギルドを後にし、有名な焼き鳥屋に向かった。そこの店主には顔をとっくに覚えられ、もう友達に近い知り合いとなっている。
「そっか、嬢ちゃんたち離れるのか」
店長は鳥を焼きながら言う。匂いが風でここまで辿ってきてお腹が鳴った。この焼き鳥ともしばしの別れかと考えると少し名残惜しくなる。
「サービスだ」
店長は私たちにプラスで二本の焼き鳥をくれた。
「あ、ありがとう...」
片手に一本ずつ焼き鳥を持った私たちは店長に別れの挨拶を告げてから店を離れる。
とは言っても今から出発するわけでもない。明日出発する予定なのだが。
美味しそうに焼き鳥をほおばっていると、誰かとぶつかってしまい、相手が転びそうになるところを慌てて支えた。
「大丈夫?」
ぶつかってきたのは十歳ぐらいの少年で目が少し腫れていた。泣いていたのだろうか。
「...ごめんなさい...すみません」
「い、いやこちらこそ。大丈夫でしたか?」
言葉をかけると、少年は我慢するかのような顔をしたその数秒後ポロポロと涙を流し始めた。
「え、あ」
慌てて懐からハンカチを取り出し、少年の涙を拭く。こんな道の真ん中で何をしているんだとジロジロ私たちを人々は見つめてきた。
「アーシェ、ここは目立ちすぎる」
ディルは路地を指すと私は少年を抱えて路地に入った。
『転移』
自分の宿に少年と一緒に転移すると、後からディルがついてくる。
「僕を置いていくなんてひどいよ」
「ごめん、忘れちゃった」
少年をベッドに座らせ、コップに魔法で水を注いで少年に渡す。
「痛かった?どこか怪我でもした?大丈夫?ひどいことでもされたの?」
「アーシェ、質問が多いよ」
クスリと笑っているディルが私に代わり、少年に質問する。
「名前は?」
「...ノアです」
「ノア、誰かにいじめられたりしてない?アーシェにぶつかる前にもう泣いてたよね?」
ノアはどう答えればいいかわからないのか、口を閉じた。
口を閉じた、そしてどう答えればいいかわからない。すなわちそんな経験がある。
ディルはふと、ノアの腕にあるものに気付き、ノアの長袖を巻いた。
「これは」
『632』
と、数字が刻まれている。
ノアはそれを隠すようにバッとディルから腕を離した。
「ディル?どうしたの?」
「これは、奴隷に刻まれるナンバーだ。ノア、君は奴隷なの?」
ビクリと肩を揺らすノアに私とディルは確信を持つ。だが、彼の服装は奴隷には決して着せてもらえない服装だった。普段の奴隷は酷ければ布一つが服。ノアはちゃんとした服を着ている。
「はぁ...奴隷制は王が去年禁止にしたはずなんだけどね」
「てことは、立派な犯罪...?」
「ああ、そういうことになる」