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あの後兵士の人たちを救ったことにより、私とディルは金貨を100枚ももらえることになった。
借金の十分の一が返せる、と喜んでお金をこの街の領主からお金を受け取ろうとするとディルが先に取る。
「......」
領主との会話が終わるまで我慢し、屋敷を出た。ずっとディルが片手に持っている金貨が詰まった革袋をバレないように見つめる。分けるのだとしたら金貨五十枚。それでも何ももらえないよりはマシだ。いつディルがその話を振ってくるのかと待っていると、ディルが笑いを堪えていることに気付く。
「な、何よ...」
「アーシェ、お金が欲しいの?」
「そ、そうよ。はんぶんこで五十枚...」
「アーシェの分はないよ?」
「....え?」
ない、とはどういうことだろうか。
「だってこれはさスタンピートで活躍したからもらえるお金でしょ?アーシェ立ってただけで何もしてないじゃん」
スタンピート時の記憶が脳内に流れる。
確かに私は何もしていなかった。ディルが言う通り立っているだけだった。
「.......」
何も言えなくなった私を見てディルは笑った。
「次は頑張ろう?」
優しく私の頭を撫でてくる。
もしや、私の借金返済の邪魔になる最大のものって...ディルなのでは。しかも追い払えないという。
「こりゃダメだ...」
来世、来世までは借金返済生活を続けなければいけないのか。いつか金貨降ってこないかな。金貨降ってくるためのダンスがあるんだったら人の多い広場でも踊るかもしれない。
軽い足取りから一気に重い足取りに変わる。
「大丈夫だって。別にこれからもう何も食べていけないような貧乏生活を送るわけじゃないし。借金を返すのはいつまでも待てるから」
「そうだけど...早めに返した方が心のストレスが取れるのよ」
「僕から離れたいからじゃなくて?」
「それもそうだけど」
ディルは軽く笑う。その笑いは少し嘘っぽく、乾いていた。
ーー
暗い部屋、長い机を囲って数人の人が会議を始めていた。
「スタンピートが一瞬で潰された。どうする?」
「誰がやったのか見たか。下っ端」
そこに座っている全員の視線が跪いている男の子に注目された。彼は怯えながらも顔を上げる。
「そ、その冒険者の方でした。名前はディル。ランクはSランクです」
座っている者たちは険しい顔をする。Sランクともなると対処が難しくなる。だが、彼らはそのことに頭を悩ませてはいなかった。
「有り得ないだろう。その冒険者の他には?」
「い、いえ。その冒険者が一人でスタンピートの中に...」
疑いの目を向けられている下っ端の少年からは冷や汗が出ていた。
「Sランクというのはそんなに強いのか?」
座ってい一人が聞く。
「いや、本来ならスタンピートを瞬殺するまで強くはないはずだ。なんせあの中には我々でも手に負えないほどの魔物がいる。誘導するのに苦労したぞ。それを軽々しく倒すとは、これからどうすればいいものか」
会議は静まり返った。皆どう対処しればいいのか考えている中、少年が声を発する。
「...罠で殺す...のはどうでしょうか。指名依頼としてディル冒険者を呼んでそして強い魔物の餌食に-」
パンっ、と少年の頬が強く叩かれた。
「黙れ、そんな案はとっくに思いついている。貴様は我らに情報を提供しとけばいいんだ」
叩かれたところは赤く腫れ上がり、少年は今にも泣きそうなのを我慢した。
「とっとと出ていけ、役立たずが」
「...はい」
少年はドアを完全に閉める。閉めたことを最終確認をした後、一息ついた。安全だということを知ったのか、心が落ち着くと涙が溢れてくる。
「痛かったよ...つらい...逃げたい...嫌だ...もう」
ジンジンしている痛さを耐えながら隠し扉から出ると、強い日差しが彼を照らす。だが、彼は元々外に出てはいけない影の人間。眩しくて顔を手で遮ると長袖が下がり、腕に刻まれた数字があらわになった。
『632』
そう刻まれた数字を少年は悔しそうに見つめる。
「こんなものさえなければ...」