12
夜中、メーアの街の地下にて。
「あのブラックドラゴンが倒されただと!?」
長い机を力強く一人の男性が叩く。その机の周りに座っている人たちは皆真剣だった。
「おい下っ端!それは事実か?!」
「は、ははい...じ、事実です!」
その男性は舌打ちすると焦ったかのように自らの爪を噛み始めた。
「このままあのお方にどう報告すれば...」
「大丈夫ですよ〜」
男性の隣に座っている彼の仲間が笑う。
「結構強い駒を殺されてしまいましたけどアレより強い魔物なんてたーくさんいますから」
「そ、そうだが...」
「あのお方もそんなに残酷ではありません。問題はこれからの計画変更とブラックドラゴンを倒した人の始末です」
「う、うむ」
そこから話し合いが始まった。二手に分かれ、本来の計画を進める者たち、そしてブラックドラゴン事件を探る者たちに分かれることが決断される。
「ブラックドラゴンを倒したやつを見つけたら迷わず殺すってことでどうでしょう?」
「「異議なし」」
長いテーブルを囲って座っている数人の人々は不適な微笑みを浮かべていた。
「「我ら『スコーピオン』に仇なす者は神に仇なす者」」
一方その頃、たくさんの闇な関係を持っている敵を作ったことを一切知らないアーシェはぐっすりと眠っていた。
ギシリ、とベッドが鳴る。
「ん...」
何事かと体を上向けに移動させ、目を薄く開ける。
「ひゃぁ!」
私の上に乗っているのは隣の部屋で寝ているはずのディルだった。
何故、どうして、何を。今の状況の整理が付かず、頭の中の情報がこんがらがっている。
「ディル...乙女の部屋で何をしているの!しかも夜中に!」
ディルは焦っていたのか余裕がないようだった。そして勢いよく私を抱き込んだ。
「怖かった...」
彼の声はとても必死で心細かった。
「ど、どうしたのよ...」
「なんか、アーシェが亡くなっちゃう夢を見て...眠れなくて。悪い予感がして...」
必死で怖がっているディルが可哀想に思ってしまい、彼の背中を優しくさする。少しでも安心させられるよう、心強くなれる言葉をいくつかささやいた。
「ありがとう」
私から離れると、彼の目に少しだけ涙が溜まっていた。
「泣いたの?」
「え、あ...本当はこんなかっこ悪いところ見せたくなかったけど」
笑っているつもりなのだろうが、笑えていない。
私が亡くなるという夢を見ただけで泣いてくれる人がいたなんて。
「私ね、必要とされなかったの」
「?」
急に話し始めた私を見て首を傾げた彼だが、私は続ける。
「家族って、結局なんなんだろうってずっと思ってたわ。虐められて、殴られて。それでも家族だからハイ大丈夫です、なんておかしいと思った。私と家族の関係は...血が繋がってるくらいだったから」
言ってて自分で泣きそうになる。堪えろ、今はその時じゃない。
「辛かったんだね?」
ディルは私を腕の中に包みこむ。
あったかい。
「僕はね...って、寝ちゃってた」
クスリと彼の腕の中で寝てしまった私をベッドの中に入れ、布団を被せる。
「...可愛い」
そのあと彼は部屋から出ると、軽い空気が一気に重くなった。
「アーシェの家族に挨拶と行こうか」