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ーーー数週間後
近くの森の中、私は剣を一振りすると、ドラゴンが二つに分かれた。隣では真剣に私の動作をディルが見ている。
「...うん。よくできたね」
よしよしと頭を撫でられる。子供じゃないんだからと頬を膨らませると彼はその完璧な微笑みを見せた。
冒険者になるために教えてもらうと言われてからついでに剣術も教えてもらった。後ほど、剣術教わるのにもお金がかかると言われ、今ではもうどれほどの金貨を彼に借金しているのか分からない。
「もう僕から教えることはないかな。まだまだドラゴンしか倒せないほど未熟だけど、あとは経験あるのみ」
「...!やった!!」
これで借金を返すために働けると思うと心が舞い上がる。
「じゃあ、利子も付けて合計金貨1000枚ね?」
「......................え」
ポトっと握っていた剣を思わず地面に落とす。
利子ってそんなに多かったっけ?金貨1000枚って王城でも建てる気なの?一生経っても返せない気がする。
「り、利子が...」
「ん?」
ディルは笑う。その表情は「いろいろ教えてあげたからこれくらいいいよね?」と少し脅迫を感じた。
「いや...頑張って返済するわ」
「うん、よろしくね」
出された手を握り返すものの、これからどうすればいいのだろうか。ドラゴンでは大したお金はもらえないだろう。ディル曰く弱いらしい。もっと...大きな依頼をしなければ一生返せない。
冒険者ギルドに戻り、空いているテーブルに腰をかける。ディルはまだ森に残って依頼をやるそうだったので先に戻ってきた。
「...どうしよう」
大きすぎる額の借金に頭を悩ませていると一つの冒険者パーティーがこちらへ歩み寄ってくる。その中のリーダーらしき男性が前に出た。
「なんだぁ?子供がこんなところでお悩み事か?」
「そうなんですよ。借金が多すぎて...あっ」
考えすぎて言ってしまった。冒険者パーティーは興味深そうに私を見つめてくる。まるで品定めするかのような視線に全身の毛が逆立った。
「俺がその借金返してやろうか?」
「え!借金1000金貨ですよ?」
いや返せるならぜひ返してほしい。
額を言った瞬間彼の顔が引きつった。
「せ、1000?」
「はい。騙されましたよね...」
「それ以外ねーだろ!お前もっと気をつけろ!」
普通に心配してくれた。
「ありがとうございます」
「ボス...!目的が」
リーダーの男性は我に返ったように私を見つめる。
「お、俺らと来てくれれば借金は俺が返すぜ?」
「行く」
「....は?」
「連れてって」
ついていくだけで金貨1000枚はお得だ。どこにでも行こう。
「ほ、本当にいいのか?おい、初めて釣れたぞ」
「ボス!何バラしてるんすか!!」
「え、あ、ああ」
リーダーらしき男性が戸惑っている様子に首を傾げる。
「い、いくぞ」
「はい!」
席を立ってついていく...はずだった。
雷の速度で私とそのリーダーの間に割って入ったのはもう見慣れすぎた人物、ディルだった。
「ディル?!依頼は終わったの?」
私を守るように腕で包み込み、剣を鞘から取り出してリーダーの冒険者の喉元に向ける。リーダーの冒険者は血相を変えて固まっていた。
「ちょっと何してるのよ!」
「アーシェを誘拐しようとしてるんだよ、彼は」
その声に焦りが混じっていた。そして息も少し切れている。そのリーダーの男性に向けられている視線は前回の女性に向けられた視線よりも冷たかった。
「失せろ」
そう彼が言った瞬間、彼の周囲の温度が下がった。お酒を楽しんでいた冒険者たちのお酒は凍り出し、彼の足元には氷の結晶が広がっていた。
「ディル!」
何故か私の周りは普段と変わらなかったが、これでは周りに迷惑がかかりすぎてしまう。
「やりすぎよ!」
リーダーの男性たちは逃げるように離れていった。彼らがギルドから出るのを見送ると、ディルはその殺気を収める。
「全然そんなことないよ。むしろ足りないくらい」
私に向けて向ける笑顔が本当に少し怖い気がした。