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肌を叩く音が今日も部屋に響く。それも一度ではなく、何度も何度も。側に控えている使用人たちには見飽きた光景だ。


私の前には息が荒れているお父様と、隣で泣いている...フリをしている妹がいた。理由は私が彼女のドレスを間違えて踏んでしまったから。


お父様の手が振り下ろされ、直後私の頬に何度目かの強い痛みが走る。脳に響くような衝撃に床が二重に見えた。


「貴様!貴様!」


彼はもう、名前すら呼んでくれない。彼の中での「私」は死んでいるんだ。


「セレナを泣かしてただで済むと思うなよ!!」


ひたすらお父様の平手打ちに耐える。


ただ踏んでしまっただけです、なんて言ったらもっと酷くされることを知っているから黙る。終わるのを願うが、こういう時に限って時間の経過は遅い。両頬が何も感じなくなったところでお父様は手を止めた。


「次セレナを泣かしたら殺してやるっ!」


「っ!おと、さま...」


「その汚らわしい口でその言葉を言うな。貴様は俺の娘などではない」


そのまま勢いよく部屋を出て行った。取り残されたのは妹のセレナと私だけ。


「アーシェお姉様、可哀想〜」


クスクスと思ってもないことを口にする。ここで何か言い返したらすぐに自分の首が飛ぶ。私は俯いたまま何も話さなかった。


「お姉様、しょうがないわよね?だって、無能なんだから!あーあ、あなたみたいな子を産んだお母様はどう思ったんでしょうね?」


「...」


何を言われても喋らない。喋ってはいけない。私の命は現在、彼女に握られているのと同じだから。彼女が泣けば、私は死ぬ。


「つまんないわ。そもそも、こんな部屋にいたくないわ」


私を一度蹴ってから、彼女も部屋を出て行った。見送った後、深呼吸する。全身が落ち着いたせいか、堪えていた痛みが溢れ出してきた。硬いベッドに座り、叩かれた頬に少しだけ手を当てると、鋭い痛みが生まれた。


「これは...当分治らないだろうな」


はぁ、とため息をつく。


丸い窓から見える星は、今日も何もなかったかのように輝いていた。月が私の部屋を照らす。屋根裏部屋で、机、椅子、ベッド、クローゼットしかないシンプルな部屋。角には箱が溜まっていて、ホコリが被せられている。痛みを堪え、ベッドに横たわる。寝ようとしたところで、ドアのところからガサゴソ...という音が聞こえてきた。警戒しながらドアに近づき、見つけたのは大きな袋と手紙だった。その手紙を手に取り、読む。


アーシェへ


ごめんなさい。早く、逃げて。お金や必要品は中に入れているわ。逃げて、この家族から。遠くへ。自分の生活を送って。


ごめんなさい、辛かったでしょう。隣にいてやれなくて、ごめんね。


ソフィア・アーネスト


その送られて来た人の名前に目を見開く。



「......お母様....」


大粒の涙が頬を伝った。そのまま隣の袋を開けると、金貨が盛り沢山入っており、服なども数着入っていた。横には治療ポーションもあった。ポーションを飲むと、痛みがなかったかのように消え去る。


「ありがとうございます。お母様」


手紙を綺麗に畳んで、テーブルに置く。もらった服に着替え、出る準備を進めた。


私は今日、今、家を出る。もう戻ってはこない。



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