みんなの力で意味を変える『オペレーションO―KKK』
(* ̄∇ ̄)ノ 寄才ノマが極論を述べる。今回は小説を書いて投稿する方に、こんなこともあるよ、というものをまとめて。
OKサイン。親指と人差し指で丸を描き、中指、薬指、小指は軽く伸ばす。
了承、問題なし、成功した、任せておけ、といったニュアンスを持つポジティブなハンドサインだ。
このOKサインは1世紀頃から、承諾のサインとして使われていたという。アメリカのOKサインとも呼ばれ、北アメリカから社会的影響がある広い地域に普及しているとされる。
多くのアラブ諸国では、脅しと猥褻のサインともされる。
地域の文化や風習によってボディランゲージは意味合いが違う国もあるが、日本ではポジティブな肯定の意味合いでOKサインはつかわれてきた。
このOKサインの意味を変える為に行われた計画が『オペレーションO―KKK』だ。
■スタート
始まりは4chanの掲示板からだった。
〇4chanとは英語圏を対象とした世界最大規模の画像掲示板。実名ソーシャルメディアの本場とも呼ばれるアメリカにおいて、4chanは匿名掲示板という特徴がある〇
この4chanの掲示板においてひとつの書き込みが発端となった。
『OKサインを本当に憎悪のハンドサインにしてやろうぜ』
この背景を少し説明しよう。
ドナルド・トランプ元アメリカ合衆国大統領は演説などの際、このOKサインをよく使っていた。その影響からトランプ支持者もまたOKサインをよく使うようになっていた。
アメリカのメディア監視団体のひとつが、トランプ支持者がよく使うOKサインを『ヘイトのシンボル』『差別主義者のハンドサイン』と報道した。
このニュースを面白がった4chanの住人が、左派をからかうジョークとしてOKサインをネタにするようになる。
■OKサインをWPサインに
手でOKサインを作るとき、天を衝く中指、薬指、小指が『W』になる。親指と人差し指で作った丸と腕の形が『P』になる。
WP、とは、ホワイト・パワー、または、ホワイトプライド、の頭文字となり、WPサインとは白人至上主義を示すハンドサインとなる。
OKサインをWPサインとして、架空の白人至上主義のサインとしてでっち上げる。左派や自由主義を釣って楽しもうというジョークだ。
ツイッターやSNSで『OKハンドサインは白人至上主義のシンボル』だと広めてほしい、と4chanの住人たちに呼び掛けられた。これにトロールが乗っかった。
〇トロールとは、SNSや掲示板などで荒らし行為を行う人。オンラインゲームで利敵行為やチート行為をするなど、インターネットで迷惑行為をする人を呼ぶネットスラング。
トローリングは流し釣りを意味し、ここから人の怒りを釣り上げる行為もトローリングとよぶようになる。語源は北欧の妖精トロール〇
OKサインはSNSで、ツィッターで、WPサインとして広められていく。もとの意味を歪める分かる人にだけ通じるジョーク。
これが『オペレーションO―KKK』として、4chanに生息するイタズラ者のトロール達の手によりインターネットの世界に広がっていく。
『左翼は深みにハマって狂ってるから、もっと深みにハマらせて、社会全体があのクソどもに近づかないようにしようぜ』
工作員の一部は架空のメールアドレスやTwitterアカウントを使い、人権団体やジャーナリストを攻撃。シンボル狩り、言葉狩りに過敏になる左派を演じて、OKサインの排除を求めるメッセージを送りつけた。
彼らの目的は一般に知れ渡ったシンボルを『差別的』とこじつけることで、反差別に敏感な人々やメディアをおちょくることだった。
この祭りの参加したトロールには、人権運動に興味の無い者もいれば、言論の自由を盾にするアンチ・社会的な良識や常識、過激な保守的思想を抱いた者、そしてリベラル系を混乱させたいだけのオルタナ右翼、本物の白人至上主義者が祭りに参加し加熱し広げていく。
『オペレーションO―KKK』とは、OKサインとKKKを合わせたダジャレだ。
〇KKKとは、アメリカの白人至上主義団体の秘密結社。Ku Klux Klanの頭文字。
WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)こそがアダムの子孫であり、真に魂持つ神の子と主張する。魂の無い他の人種とは隔離されるべきとも言う。白い三角頭巾の覆面がトレードマーク〇
広まる『オペレーションO―KKK』はネットの中のジョークから、じわじわと現実の常識を侵食していく。
■フェイクニュースからリアルへ
OKサインを出した警備隊員が任務から外される事態に発展、という報道が話題となる。後にこの報道は事実無根のフェイクニュースと判明したが、多くの人がこのでっち上げのニュースを真実だと信じて話題にした。
嘘から出たものが広まり、いよいよ実に変じる。
フロリダにあるユニバーサルスタジオで、キャストがOKサインを出した件がニュースになる。
映画『怪盗グルー』に登場するグルーが子供の肩でOKサインをしていた、というもの。
これに家族旅行で来ていた母親はショックを受ける。
『子供たちをミニオンに会わせたい、家族にとって特別な思い出を作りたい、という家族旅行が、このキャストのせいで台無しにされた』
アメリカのUSA Todayのインタビューで両親は、『差別的な意味のジェスチャーを平気で行う差別的主義者が、ユニバーサルスタジオでキャストをしていることに衝撃を受けた』と応える。
この件をユニバーサル・スタジオは重く受け止め、問題の従業員は解雇された。
また二度とこのような事が起きないよう、指導を徹底すると謝罪した。
この両親は子供たちとグルーが写真撮影をした際の動画をUSA Todayを通じて公開。
YouTubeで『USA Today OK』と検索すると出てくるだろう。
2019年、ニュージーランドで起きたモスク(イスラム教礼拝所)襲撃事件。死者51人をだしたニュージーランド史最悪のテロ。
裁判所に出廷した被告も、右手でOKサインを出していた。
被告は『The Great Replacement』と題したマニフェストへのリンクを、匿名画像掲示板の8chanに投稿。
『恐怖を生み出し、イスラム人コミュニティーに対する暴力を扇動したかった』
と、マニフェストには書かれている。
被告は移民排除を語り、ロマ、インド人、トルコ人、セム人らが自国を侵略していると主張する、極右の白人至上主義者だった。
2017年ごろから始まる『オペレーションO―KKK』は、OKサインが白人至上主義者のハンドサインだと現実を染め替えていく。
シカゴの高校が、卒業アルバムを作り直す事態になる。生徒たちがOKサインのポーズを取って写っている写真が卒業アルバムに含まれていたためだ。
学校の卒業生達が卒業アルバムの写真から、極右や白人至上主義者のレッテルを貼られるわけにはいかない。そうなれば卒業生の将来に悪影響を及ぼす。
卒業アルバムの写真から、進学、就職、結婚などで、疑われたり不利になったりする可能性があることを憂慮し、作り直すことに。
2019年、反差別を訴えるユダヤ系団体『名誉毀損防止連盟』(ADL; Anti-Defamation League)は、ヘイトシンボルのデータベース(Hate on Display)にOKサインを追加した。
ただしそこには『このシンボルを評価する際には特に注意が必要』とのメモが添えられている。明確に白人優位やネット荒らし的な意図がわかるケースでない限り、ジェスチャーは非難されるべきではないとしている。
OKサインはゲームの世界からも排除される。
2019年、ゲーム『オーバーウォッチ』の大会において、ファンがOKサインを使うことを禁止された。
〇『オーバーウォッチ』(Overwatch)は、2016年に発売されたアクションシューティングゲーム。6対6のオンラインチーム対戦型〇
海外メディアのGameSpotは、オンライン対戦において、倒した敵プレイヤーに屈辱を与えるためにOKサインが使われていたと指摘している。
こうしてアメリカでOKサインはWPサインとして、白人上位主義者であることを示すハンドサインと認識されるようになった。公式の大会などで使用が禁止されるようになる。
アメリカの同盟国である日本でも、イラストやマンガでOKサインが使えなくなるかもしれない。オリンピックなどの世界大会では使用を控えた方が良い、と選手や観戦者に説明が必要になるのではないだろうか。
■カエルのペペ
『オペレーションO―KKK』は、過剰に反応する反差別主義者をからかうジョークから始まった。
やがては『シンボル狩り、言葉狩りに熱狂する左翼』という構図を作り上げ、左派を社会的に貶めることが目的となる。
ネット・ミームとして広まったWPサインは大衆に浸透し、これまで無害だったOKサインに不快感を覚え抗議する人が現れた。企業もまたそれに真摯に応えた。
言葉やシンボルのイメージは時代と共に使われ方で変化する。
ところがインターネットが普及することで、誰もが匿名でこのイメージの変化を意図的に起こすことに参加できるようになる。
ドキュメント映画
『フィールズ・グッド・マン』
(Feels Good Man)
この映画は、インターネットの中で意味を変えられてしまったキャラクター、カエルのペペの悲劇を描いたものだ。
カエルのペペはマンガ『ボーイズ・クラブ』のキャラクター。作者はマット・フュリー。Feels Good Manはカエルのペペのセリフから。
カエルのペペは差別的な意味のあるキャラクターでは無く、作者のマット・フュリーは、『私は政治的なアーティストではない、文化を作りたいだけなんだ』と言う。
しかしカエルのペペは4chanで人種差別的な投稿に使われるようになった。やがてオルタナ右翼の象徴として使われるようになる。
2016年にはアメリカの名誉毀損防止連盟(ADL)はデータベースにヘイトの象徴としてぺぺを登録。
作者のマット・フュリーはぺぺがヘイトの象徴として使用されていることを非難し、ペペのイメージを回復しようと『#SavePepe』キャンペーンを行うも、一度つけられたレッテルを剥がすことはできなかった。
ネットでヘイトコメントなどを発する人たちの『人種差別の象徴』『白人至上主義のシンボル』に歪められたカエルのペペ。
2016年のアメリカ大統領選時には、トランプ本人がぺぺのミームをツイッターに投稿し、悲劇のカエルは更に人気のキャラクターになる。作者の意に反したものとして。
政治的では無いマンガのキャラクターが、他の政治的活動をしている人たちに利用されてしまった実例だ。
■個人の体験
私がこのOKサインとカエルのペペについて調べたのは、私の体験したことが理由だ。
私はかつてこのサイト、小説家になろう、にSF小説を投稿した。ネット小説大賞に応募して、落選した。
そんな小説でも読んでくれる人がいた。
ある日、私の小説を読んでくれた方が親切に教えてくれた。
「スコ速で『トカゲは死ね、ナメクジは死ね』が紹介されてましたよ」
〇スコ速とは、スコッパー速報の略。文芸書籍サロン板のまとめ、Web小説関連のニュース、Web小説の紹介などがまとめられたブログ〇
早速見てみると、確かに私の小説が紹介されている。そして紹介されたので読んでみた、という方の書き込みもあった。これは良作といった感想も書かれていて、嬉しくなった。
ネットに小説を投稿するのは、こうして見知らぬ人に読まれて掲示板で語られるのか、と拙作がネタになっているのを見て、初めて体験した。
親切に教えてくれる方がいなければ、スコ速で自作の紹介と感想があったことに気が付かなかったことだろう。改めて感謝を。
褒められているのを見て、書いて良かったと嬉しく思っていた。が、ひとつの書き込みが気になった。
『トカゲとナメクジの作者ってパヨクなのかwww
面白くないのをああも持ち上げられる感性
上司や先輩が書いたのですかね?』
なぜかパヨク呼ばわりされている。
〇パヨクとは、左翼思想の者を侮蔑・嘲笑の意味を込めて呼ぶインターネットスラング〇
面白い、面白く無い、といった感想はその人の思いのままに、だろう。
別の作品で『コレ書いた作者は変態』という感想をもらったことはある。その作品の内容がちょっとアレなので、変態と呼ばれたら『そうです、私が変態です』と開き直って応えたものだ。
しかし、パヨクのレッテルを貼られることになるとは。
不特定多数の人が見る可能性のあるネットに小説を投稿するのは、こういうこともあるのか、とモヤッとした。
その書き込みの直後に、
『パヨクじゃねえだろ』
という書き込みがあり、ツッコミありがとうと感謝した。
ネットの闇を垣間見た。が、救われた思いをしたのもネットの書き込みだった。
このとき、スコ速で紹介されたことで読んでくれる人が増えた拙作『トカゲは死ね、ナメクジは死ね』は、小説家になろうのランキング、ジャンル別空想科学で日間1位になった。
ネットに小説を投稿する楽しさと怖さを同時に味わった件になる。
この場を借りて、拙作を紹介してくれた方、内容を読み取ってくれた方に改めて感謝を。
■なろうのランキング
主義や思想は人により様々で信念や美学は違うもの。そしてインターネットでは様々な人が、それぞれの思惑でツイッターやSNSを利用する。
今の時代、アーティストなどの人気商売は、誰もがSNSに参加することになる。
中にはインターネットの問題に巻き込まれることもある。
日本では小説『二度目の人生を異世界で』は、作者の過去のツイッターでの発言や、小説内の主人公の過去の設定などが問題になり、アニメ化が中止。これまでに刊行された18巻も出荷停止となった。
ツイッターなどが人気のツールとなり、中にはツイッターやSNSで悪さをするトロールがいる。
人気となったツールは政治的に、商業的に利用できないかと攻略法を開発されるようにもなる。
『オペレーションO―KKK』は集団でリアルの単語やシンボルの意味を変える、意味改変チートの成功例とも言える。
小説家になろうのランキングがありがちなものばかり、という批判が出るのもネットの問題が背景にあるのではないだろうか?
小説に限らずアーティストなどの人気商売では、政治的な問題、社会的な問題があれば批判され、小説であれば出荷停止。俳優であれば降板となる。
その圧力が高まれば、問題を起こさないように、世論の敏感なところに触れないようにと気をつけることになる。
娯楽作品も政治的、社会的なメッセージ性を含まずに、社会への影響力をまるで持たない作品を世に出すか、逆に強いメッセージ性を込めて人々の注目を集めるかの二極化になっていく。
書籍化した作家が自作の宣伝の為に、また、自作の書籍化を望む未来の小説家がネットの小説大賞に応募するために。こうして書かれる作品は前者のメッセージ性を含まない作品になるだろう。
出版社から見れば、後に販売停止という騒動になる作品は商品として扱いたくは無い。
ありがちなものはありがちだ、と叩かれる以外には、人種問題や差別問題に引っ掛かり叩かれる心配も少ない。
一方で私のような活字中毒から見れば、メッセージ性の薄い作品は物足りない。もっと濃いものが読みたい、となる。こういうのが小説家になろうのランキング批判の根になるのではなかろうか?
■まとめ
言葉の問題がこれからの小説にどう影響するのだろうか?
『嫁』『家内』『奥様』は女性は家事を連想させるため、ジェンダーに配慮するなら使うべきでは無いとか。同様に『夫』『主人』も控えた方が良いとか。
『メリークリスマス』も特定の宗教を讚美するために言い換えた方が良いとか。
スチュワーデスや看護婦は既に死語となっているが、ポリスマンもポリスオフィサーに、ビジネスマンもビジネスパーソンに。サラリーマンも死語となりサラリーパーソンと直さないといけないのだろうか?
東京ディズニーランドと東京ディズニーシーは、パレードやショーの案内などに使用していた園内アナウンスを
『レディース・アンド・ジェントルメン、ボーイズ・アンド・ガールズ』
から、
『ハロー・エブリワン』
などの表現に変更している。性的マイノリティの来園者などに配慮してのこと。
社会的な良識や常識から言葉狩りに熱心になる人が現れ、その人たちを釣り上げおちょくろうというトロールも現れる。
無害なOKサインはネガティブな意味に書き換えられ、人前でOKサインをすれば『私は白人上位主義者です』とアピールする。そう認識されてしまう危険性のあるものになってしまった。
伝えることは難しく、伝える為のツールである言葉はミーム戦略で改変されようともされる現代。
スコ速でパヨクなのか、と呼ばれることもあれば、同じ掲示板で『読み終わった後は不思議と生への活力をもらえる作品』と賞賛されることもある。
読み取ってくれる人がいること、伝わる人がいることを信じることが、小説を投稿する上で大切なことかもしれない。
BGM
『つじつま合わせに生まれた僕等』
amazarashi