第79-5話
いつもありがとうございます!
「これで一段落つきましたね。」
「ええ。お疲れ様でした。」
ようやく片が付いてきたセミナーの準備。
お互いの働きを労い合うななと巫女ルビーは今日集まってくれた生徒達の労苦にも感謝の気持ちを表した。
「皆忙しいのに「神社」のために駆けつけてくださったこと、とても感謝しています。
やっぱりいい生徒ばかりですね。この学校は。」
微笑ましくこの学校に通っている自慢の生徒達を称する巫女。
いつの時代も彼女にとってここの生徒達はかけがえのない宝物であった。
「私はもう何十年もこの学校で巫女として身をおいています。そのおかげでたくさんの生徒達と出会うことができました。
皆とてもいい人だったし私もまた彼女達に手本になる巫女になるため精一杯頑張りました。
あなたの母も、その母もとても優しくて強い人でした。」
「そう…ですの?」
あまり自分には知らない母と祖母の話に興味を示すなな。
特にななは子供の時、忙しい両親の代わりに祖母に預けられて育ったばあちゃん子だったゆえ、祖母のことが大好きであった。
「赤城財閥」から運用している特殊部隊「メルティブラッド」の元首領である母。
そして「赤城財閥」の「赤城家」元当主である父。
二人共一人娘のことを心から愛し、大切にしていたがその頃はななの面倒を見ることができないほど忙しかったゆえ、ななを祖母に預けることしか選択肢がなかった。
無論その事情をななはよく理解していて一度もそのことを恨んだりはしなかった。
「お祖母様はわたくしのピアノの先生でしたわ。お上品でお優しいで。」
「「アーニャ」は我が学校が生んだ音楽界のスター。そのことを誇らしく思っています。」
遠い昔、世界的なピアニストとして世界を飛び回ったななの祖母「アナスタシア」。
娘の「ナターシャ」もピアニストとして活躍したが決して母のようにはなれなかった。
「お祖母様の演奏はお美しいですわ。そして激しくて感性的で。」
「ええ。アーニャの旋律はまさに世界の至宝でした。」
たくさんの人の心を感動してきた祖母の演奏。
ななは子供の頃から自分もまた人々に感動を与えられるそのような音楽人を目指していた。
今は療養のため、本国の「ワラキア」に帰った祖母のアナスタシア。
巫女ルビーはななにこれ以上日中の時間ではなく夜の本国に帰って祖母の幸せな時間を過ごして欲しかった。
それこそがななにとって最もいいことだと彼女はそう確信していた。
だが思わずその選択をためらってしまう時がある。
「白無垢…」
それはななの心に残っている一握りの未練を見つけてしまう時であった。
最後の確認のために寄った神前式の会場。
今年からは3年生だけではなく他の学年も参加ができるため、その場所を広める必要があった。
「私一人では庭の整理すら間に合いませんから。」
っときれいに整った庭を満足した顔で眺める巫女の顔には既に笑いが込み上げている。
桜が舞い落ちる静寂で清潔な庭。
池には巫女の大切な彩りの鯉と鴨などが自由に泳いでいて開放感まで感じてしまう。
だが庭だけではなくその周辺や建物の掃除まで担当の生徒達は手を抜くこともなく完璧にこなした。
「ここって確か青葉さんの指示だったんですわよね?さすが青葉さん…」
あまりにも完璧な仕事ぶりに思わず感心してしまうなな。
細かいところまで怠らず丁寧に気を使った部分が特にすごいと思われるところであった。
「会場そのものはまだ少し足りないところもありますがまさかここまで準備を済ませておいたとは思いませんでしたわ。」
「はい。会場さえ間に合えばいつでもいけます。」
忙しかったせいで期限までは間に合わなかったことに少し残念な気持ちを表す巫女。
だがななの目には既に何らかの理想が広まっていて
「いいですわね…」
巫女は決してそれを見逃さなかった。
PR撮影のために特別に用意された白無垢。
新しい未来と期待感を抱いているその純白の象徴からななは目が離せなかった。
この着替え室に入ってからななはその衣装のことをずっと気にしていた。
「わたくし、恥ずかしくてあまり人には言えませんがこういうの、ずっと憧れでしたわ。
いいお嫁さんになること。」
「赤城財閥」は伝統的な「魔界王家」の「神殿」の家柄だが決して他の宗教を軽んじるわけではなく、むしろ畏敬の心を抱いていた。
「大家」の以前から、「神樹様」となった救世主「光」の登場よりも遠い昔から存在した「神社」と各自の「神様」を持っていた「神界」と「魔界」。
それぞれの奉る神は違ってもその3つの世界はお互いの思想を尊敬し、認めていた。
誰一人「神樹様」への信仰を押し付けなかったが3つの世界は彼女がこの地に残したかった意思を受け継いで実現するために力を合わせた。
今になっては自分達の「神様」と同様に「神樹様」を信じている3つの世界は真の平和を成し遂げるために誰もが自ら「神樹様」の味方として一生懸命努力している。
その素晴らしさを「赤城財閥」の次期当主はよく理解していた。
だからこそあの子には理想の結婚式を挙げさせたかった。
この白い花嫁衣装の袖を通して皆に祝福されてこれからの未来への期待感に胸を膨らませる青い目がきれいな金髪の少女。
そしてその傍に立っているのはいつだって自分だと彼女は信じて疑いようもなかった。
「うちって「神社」の家柄だから私、ずっと憧れてね。白無垢とか。」
異なる種族。
大戦争の時だったら決して交わることもない真逆の存在。
だが巡り合ったその絆を彼女は「奇跡」だと思い、大切にした。
自分もまたその奇跡のために、かつて救世主「光」が成し遂げた平和という奇跡のために頑張りたかった。
「いつか着させてあげたいな。ななに。」
そう笑っている幼馴染の少女が作り上げた八重歯の笑顔はとても可愛くて眩しかったとななはそう覚えていた。
「まあ、今になっては叶うはずもないしょうもない願いに過ぎませんが。」
その時のなながどのような心境だったのか巫女には分からない。
だがそう言いながらその服から背いてしまうななのことに彼女は何故か胸がチクッと痛かった。
「それじゃ次に参りましょうか。」
「…ええ。」
っと先を急ぐなな。
その時、
「副会長、ちょっといいですか。」
巫女は何故か彼女を呼び止めてしまった。
***
「先輩。」
「モリモリ?」
そろそろお手伝いも終わりかけている頃、やっとかな先輩を見つけた私。
そんな私のことを
「どうしたの?まだ帰らなかった?」
「はい…先輩、まだかなって…」
先輩は珍しいって見つめていました。
担当箇所が終わったら各自自律的に帰ることになっていますがまだ一人で残って後片付けをしているかな先輩。
相変わらずすごい責任感だなっと思いかけていた私でしたが
「ごめんね?なんか色々。」
私に向けたかな先輩からの初めての一言は何故か私への謝罪でした。
「何が…ですか?」
っとわざと聞く自分のことを少しあざといかなって思ったりしましたが
「ん…まあ、色々…」
先輩はただ色々っていう言葉ではぐらかすだけでした。
「もうユリユリに聞いたと思うな。だってモリモリ、顔でダダ漏れだし。」
「す…すみません…」
白を切ったつもりでしたがどうやら全部見抜いていたような感の鋭いかな先輩。
私はつい今の嘘をついた自分の行動を謝ってしまいましたが
「ううん。謝るのは私の方だから。」
先輩はむしろ私に自分から謝りたいと言いました。
「本当にごめんね?転学のこととか全部隠して。」
「いいえ…それはもういいですから…」
先輩の転学もなかったことになったしそれ以上その件を問題にする気はありません。
確かに相談もせずにあんな一大事を一人で決めつけちゃたってのは地味にショックでしたけどきっと先輩なりにいっぱい悩んで出した結論だったはずですから…
結局私達はかな先輩にとって部外者にすぎないんだって思われた時はもう寂しくて寂しくて完全にノックアウト状態でしたがなんとかゆりちゃんが引き止めてくれたおかげで先輩もその件について考え直してくれたからもういいんじゃないかなって…
「ユリユリがね?ヒーローは逃げるもんじゃないって言ったんだ。それを言われた時、なんかめっちゃ恥ずかしくて恥ずかしくて。」
「ゆりちゃんが…」
明るくて周りを元気にしてくれる同好会のヒーロー。
私はかな先輩のことをずっとそう思っていました。
「ななのところへ行くんでしょう?連れて行ってくれない?」
そしてそのヒーローは既に心の準備を済ましておいていたのです。




